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TJメカニズム 4.....袖2



TJ(テーラードジャケット)メカニズム3....袖1では、袖の基本設計とイセの入れ方について解説しました。テーラードジャケットの袖が他と違うのは袖付けにイセが入る点だと僕は言いましたが、実はもうひとつ重要な問題が残っています。それは山袖と谷袖の切替位置です。

メンズの一般的な袖は谷袖よりも山袖の幅が広く、横から見た時に切替線が見えないようになっています。しかもその袖は肘の曲がりに対応するように湾曲していて、そのカーブは縫い目のない部分、つまり切替線ではない部分に出ています。もちろんこれはアイロンのクセ取り操作によって表現できるわけですが、もしアイロン操作を使わないとすれば、切替線の無い部分にカーブを表現することはできません。山袖と谷袖の切替位置の違いによって、その表情とクセ取りがどう変化するのか。またアイロンを使わずなおかつ肘に対応したカーブを表現するにはどうすればいいのか。今回は袖切替のメカニズムについて解説します。
 

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1. カーブの位置

肘の曲がりに対応した袖を作るために、テーラードの袖は湾曲しているのが一般的だと言いましたが、そもそもそのカーブは、袖のどの位置に出るのが理想的なのでしょうか。

下図はその答えです。前のカーブも後のカーブも、カーブは必ず袖幅の2分の1の位置に出なければなりません。袖を半分にたたみ、肘から下を湾曲させるとなれば、カーブの出る位置は図のように2分の1にならざるを得ないのです。したがってこの2分の1の位置に切替を持ってくれば、アイロン操作無しで、カーブが表現できるということになります。
 

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それじゃあ縫い目が見えてカッコ悪い。
多くのみなさんはそう思うでしょう。僕もそう思います。しかし4番袖の赤破線のように、切替位置を内側の見え難い位置に持ってきたらどうなるでしょう。確かに縫い目は見え難くなったでしょうが、この位置でカーブさせるわけにはいきません。これは物理的に不可能です。どうするか。もちろんクセ取りしかありません。アイロンを使って、赤破線部のカーブを、袖幅の2分の1である前側に移動するのです。

クセ取りと言われているアイロン操作の中で、最も多いのがカーブの移動です。カーブの移動とは、パターンで表現されているカーブを、切替の無い、平面部分に移し替えるという操作です。 その代表的なものが、みなさんも良くご存じのパンツのクセ取りです。パターンの脇線と内股線で表現されているカーブを、切替の無い、後身頃の折り山部分に移動することで、ヒップと太腿との差寸を埋め、お尻の膨らみを出し、シワのない美しいシルエットを構築します。またジャケット類の縦の縫い目、背中心や脇線なども同様です。例えば細腹が最も顕著ですが、パターンでは強いカーブとして表現されている前側と後側の縫い目を、アイロン操作で同一平面として処理します。つまり真っ平らにするわけですが、それによってカーブは縫い目の無い細腹の中心部へ移動し、丸みを帯びた立体的なシルエットを作り出します。

 

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2. 袖切替のクセ取り

下のムービーをご覧ください。袖前カーブのクセ取りです。前縫い目のカーブを、袖幅の2分の1の位置まで移動する様子が良くお解りかと思います。ポイントは、谷袖カーブを優先し、山袖側カーブを犠牲にして追い込むというところです。そしてこのクセ取りが、ある重要なメカニズムを教えてくれるのです。
 



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3. クセ取りのメカニズム

このクセ取りで最も重要なのは、クセを追い込むべき袖幅の2分の1の位置が、切替線からどのくらい離れているか、という点です。
上のムービーを見れば解るとおり、山袖側カーブは谷カーブと同じ方向に湾曲します。ここで生じるひずみを追い込む作業がクセ取りの本質なのですが、このひずみは、切替位置から2分の1地点に向かって、放射状に広がるという点に注意しなければなりません。放射状に広がるということは、追い込むべき目的地の距離に比例してひずみ量も増えることを意味します。つまり、クセを取らなければならない量が多くなります。しかもその量はカーブが強くなるほど増大します。
 

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これは実際にやってみれば解りますが、かなり厄介な作業です。前肩処理やその他のクセ取り同様、現存する既製服の工場ではなかなか満足のいく仕上がりは望めません。したがって前切替の位置をできるだけ袖幅の2分の1地点から近いところに取り、湾曲を緩くするというパターン操作が必要になります。そしてもうひとつ、これはある意味インチキだと僕は思うのですが、放射状に出るひずみを少しでも軽減するため、山袖カーブの距離を谷袖より短くします。
この操作はみなさんも良くご存じだと思いますが、どうしてそうするのかという因果関係を、明確に理解している人は少ないのではないでしょうか。実はこうして山側を短くすることで、縫い目を割る際、地の目方向に縫い目を伸ばすことができます。縫い目を伸ばせばひずみも伸びることになり、イセる分量ががそれだ減ることになり、楽にイセられることになります。これはパンツの内股で後身頃のカーブを短くするのとまったく同じ理由ですが、先人の考案した方法論のひとつです。
 

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4. クセ取りを前提とした袖の設計

クセ取りをし易くするため、前袖切替位置は、袖幅の2分の1地点に近い方がいいと言いました。しかしあまり近すぎては意味が無くなるし、現実問題としてどのくらいが適当なのでしょうか。
これはイセをどこまで殺せるか(追い込めるか)という問題と直結するのですが、生地の厚みや甘さによって一概には言えません。平面製図でよく見かける3~4cmというのが一般的ですが、これを基準に、その他の条件に合わせて前後すればいいと思います。ここでは3cmの距離でやってみました。
実際問題として、フラノやウーステッドといった普通のウールを使う場合、かなり内側に切替を持ってくることができます。つまりこの程度の追い込みは容易にできる、アイロン操作もそれほど難しくない(肩グセ取りなどに比べて)という意味なのですが、既製服の工場がどこまでできるかは疑問です。女性物も男性物も、世の中に出回っている服を見る限りでは、やはりちょっと無理なのかな、と思わざるを得ません。
 


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