テーラードジャケットパターン全行程3

ドレーピングからはじまり、ようやく両身トワルを組むところまでやってきました。このトワルによってドレーピングの完成度を確認し、修正すべき点を修正し、ファーストサンプルへと向かうわけですが、ここで完成予想図のほぼ9割がフィックスしてしまうため、全行程の中では最も重要なパートだと考えなければなりません。

トワル作りで気をつけなければならないことはただの一点、パターンどおりに仕上げる、という点です。そんなことは当たり前だと叱られそうですが、このことが解ってない方々が大勢います。この問題はまた別な所で詳しく書きますが、パターンが何のために存在するのかを考えれば誰にでも理解できることだと思うのですが、現実は実に悲惨です。パターンどおりに裁断しパターンどおりに縫う。これが原則であり既製服の基本的な考え方ですが、それはトワル作りも同じです。パターンどおり寸分違わず縫い上げることに神経を使わなければなりません。不器用な人にとっては辛い行程かも知れませんが、パターンどおりに縫えないならば、トワルを作る意味はありません。
 



1. パターンの粗裁ち

さてトワル作りでもうひとつ大事な点は、作業の早さです。
これはもちろんこのパートに限った話ではなく、パターンメーキングの全行程を通じて意識すべき重要ポイントなのですが、特に手作業が多くなるこのパートは、より一層の意識を持ってかからないと、仕事は決して早くなりません。裁断を早めるためのひとつの方法として僕たちはロールカッターを使いますが、そのための工夫があちこちに散らばっています。パターンの粗裁ちもそのひとつですが、生地をパターンごと裁断するため、このような手順で作業を進めます。


2. 裁断

粗裁ちしたパターンを生地の上に並べ、ロールカッターで各パーツを切り取っていきます。場合によっては要尺的な意味で少々無駄が多くなる可能性もありますが、僕の場合は、多少の無駄より早さを優先します。

ノッチはノミを使い、ダーツや釦位置などの内部線は、カーボン紙と目打ち、ルレットなどで印を付けます。カーボン紙はそれだけではペラペラで使いづらいため、パターン用紙を芯として貼り、片面用と両面用をあらかじめ作ってあります。黒っぽい生地はカーボン紙の印では目立たないため、チャコペーパーなども併用します。



3. 縫製

これはトワル用の生地ですが、なるべく本チャンに近いものがいいため、似たようなゴアテックスを使っています。

うちのミシンで、たいした調整も行わずに縫うのですから、プロの工場さんのようにはいかないのですが、それにしても縫いにくい生地です。生布が細番手であること、裏に防水透湿ラミネートを貼っていることで、生地がまったく動きません。つまり伸びないのです。ならばパターンどおりに仕上がりやすいのではと思うのですが、なかなかどうして手強いものです。こんな生地でもパターンどおりに仕上げてくる工場さんはさすがですね。



4. トワル検証-身頃

できあがったトワルをダミーに着せてみました。衿と袖が付いていませんが、まずはこの状態で身頃の検証をします。次に袖を付け、さらに衿を付けという具合に、順番にパーツを取り付けて検証します。そうすることで、欠点の因果関係を明確に特定できるからです。全てのパーツを組み上げてしまうと、仮にどこかにヘンなシワが出ていても、なぜそうなるのかという因果関係を、特定するのが難しくなります。欠点の原因を特定するというのは、パターンメーキングにおいて最も重要な作業のひとつです。トワルを組み、これを検証することを立体補正と呼びますが、文字通り立体で確認しながら、欠点を補正しようというものです。その欠点がなぜ出るのか。もしその因果関係を正しく特定できないとしたら、パターンの修正ができないことになります。

上段の脇から見た写真に円で囲んだ部分がありますが、このシワがなぜ出ているかわかりますか。これは反対側も同じように出ているのですが、答えを申し上げる前に、ちょっとみなさん考えてみてください。ヒントを言いましょう。僕が着るとこのシワは出ません。このダミーに着せたときだけ出ます。しかし最初のドレーピングの時点では出ていませんでした。

それ以外、身頃で修正するべき点はそれほど無いように、僕は思います。パッカリングで縫製は汚いですが、パターンの整合性、ほぼ予定どおりにできていると思っています。シワの原因については後ほどお話しましょう。



5. トワル検証-袖

袖を付けてみました。元々山の低い袖を設計したので、このような見え方になります。一般的な袖物と比較すると、かなり山が低いと感じますよね。もう少し山を高くした方がいいのかも知れません。また前の切替をやや内側に移動しましたが、やはりクセがうまく取れないため、収まりが悪いですね。これなら山と谷が同じ幅になる袖の方が、つまり切替でカーブさせたほうがマシですね。 もう少しアップして見てみましょう。

後のかぶり具合はまあまあかなと思いますが、前AHのラインが美しくないですね。白の破線で示すとおり、ラインがS字を描いています。やはり山が高すぎるのでしょうか。せめて右の実線くらいにはしたいところです。

無理がかかっていると思われる箇所があれば、それを外すというのが立体補正の常套手段です。この場合、山が低すぎると思えるわけですから、とりあえずは袖を途中まで外してみました。

案の定収まりが良くなってきました。前のアームホールラインも理想的に見えます。開いた分量は肩先で約5ミリ程度ですが、袖山をその分だけ高くするより、ここは肩幅を修正した方がいいように思います。袖山を高くしただけでは、アームホールラインが理想的にならないだろうと判断したからですが、その原因は、最初のドレーピング時の脇面作りが甘かったためです。もっとしっかり面作りをしなければダメですね。

肩幅と袖山は深い関係があり、これもまたふたつでひとつという不可分の関係です。アームホールと袖の基本3を参照してください。



6. トワル検証-衿

次が衿ですが、これは検証するというより、ここから更に作り込むことになります。外回り分量を求めますが、これを不織布で見るためには経験が必要です。生地の厚み等が加わり、また衿腰を切り替えることでの微妙な変化も考慮しながらの作業となります。



7. トワル検証-その他のディティール

最後にポケット位置などその他のディティールを修正変更しました。納得できないのは釦位置の変更ですね。多少ならともかく4cmも変わってしまっては、最初に得たドレーピングの情報は何だったのかということになります。返り線の傾斜が大きく違ってしまうのですから、そのままじゃ上衿がきれいに返らないと考えますよね。はたしてどうでしょう。上衿はうまく収まるでしょうか。僕は大して気にしてないのですが、確かに本来なら、この時点で返り線を求め直さなければなりません。まあでも何とかなるかも知れません。とりあえずはこのままでやってみましょう。