ドレーピングを行うにあたって重要なのはダミーの基礎作りです。バストの膨らみ具合やウエスト、ヒップのシルエットを、パンヤや粗綿を積んで調整することはみなさんやっているようですが、肩周りに気を遣っている方々はあまり見かけません。しかしTOPSをやる場合、肩傾斜とAH断面傾斜(袖の振り角度)は極めて重要です。

肩傾斜のページでも書いていますが、TOPSの運動機能は肩の傾斜角度、つまり怒り肩かなで肩かが大きく影響します。標準的なダミーはほとんど20~22度に作られていますが、シャツやブラウスのように、布帛素材でなおかつ運動性を持たせるためには、ヌードのままでは傾斜が低すぎます。男性用は言うに及ばず女性用であっても、運動性能には気を遣わなければなりません。ここではシャツはあくまでもジャケット等アウターの下に着るものという前提があるからですが、僕の服作りはアンダーでもミドラーでも、中に着る服ほど見た目より運動機能を重視するのがひとつの特徴です。たとえシャツでもアウターとして着用するのだという前提なら、傾斜角度もそれなりに押さえる必要があるでしょう。今回は男性用シャツを前提としての基礎を作りますが、ここで重要なのは傾斜角度ではありません。ジャケットにもカットソーにも対応できるよう、目的に応じた基礎をどのように作るのか、それを知っていただきたいと思っています。単純なTシャツを作るにしても、使う素材やコンセプト、目的など、企画意図を熟慮したパターンメーキングをしなければなりません。そのためにはどうしてもダミーそのものに手を加える必要が出てきます。それがダミーの基礎作りです。

ダミーの基礎を作るにあたり用意するものは下の写真のとおりです。

1. セロテープ
これは3番の厚紙をダミー本体に留めるために使います。

2. 肩パット
肩傾斜を高くするために積みます。厚みは約1cmですが、センチ単位で選ぶのではなく、積んだ時の肩傾斜角度を測定し、足りなければ積む量を増やし、多ければ減らすという具合に調整します。

3. 厚紙
脇面を作るために使います。
脇面とはAHの切断面ですが、ここに着く袖の振り角が決定される重要なポイントです。詳しくはアームホールと袖の基本を参照してください。

4. 傾斜計
肩傾斜を計るための道具です。これについても、詳細は肩傾斜を参照してください。

5. メジャー
説明はいりませんよね。
ここではおおよその肩幅を決める時に使います。



2. 基礎作りのワークフロー

今回使用するダミーはGY36です。
メンズシャツを作るという前提で基礎を作りますが、これはシャツを作るには実に優れたダミーです。ヌードの肩傾斜は約21度。約1cmの肩パットを積み、傾斜を18~19度くらいまで高くします。



3. 脇面を作る

脇面とはアームホールの切断面だと言いましたが、切断面である以上、ここは完全な平面でなければなりません。ダミーによっては腕や凸型のシールドが付いていたりしますが、そのような立体では困るのです。後に袖を付けることになる面でもあるのですから、完全な平面、切断面を表現できなければ意味がありません。シーチングで組んだ身頃がこの部分で潰れてしまわないよう、完全な平面を保てるよう厚紙を貼るわけです。重要なポイントは切断面の角度を思いどおりに付けられるかどうかです。切断面の角度が袖の振り角となるわけですから、完成した服の袖の表情はここで決まってしまいます。もしもトワルを組んだ後に思いどおりに行かなかったとしたら、この作業からもう一度やり直さなくてはなりません。もうひとつの重要な点は肩幅です。ここでは22.5cmにしていますが、厚紙の肩の頂点でこの寸法になるよう貼付けなければならなりません。



4. 肩パットを付ける

肩パットは左右均等に取り付けます。またアームホール側で、先に貼付けた厚紙より外側に飛び出さないように注意しなければなりません。何度も申し上げるとおり脇面は切断面であるため、ドレーピングをする際に完全な平面として表現する必要があるからです。したがって厚紙より外側へはみ出した部分は、ハサミでキレイにカットします。これで基礎作りは完了です。ジャケットでもカットソーでも、ドレーピングは(というよりパターンメーキングは)企画意図に合致していなければなりません。ヌードダミーを考えなしにそのまま使うのではなく、目的のシルエットや表情が再現できるよう、品番ごとに基礎を変化させながら進めるべきです。