美しい衿があって、それが無理なく自然に収まったところが衿グリとなる。美しい袖があって、それが無理なく自然に収まったところがアームホールとなる・・・・でしたね。つまり先に衿や袖があるわけです。みなさんがやっているパターンメーキングでは、あくまでも身頃が最初です。衿グリを先に決め、それに合うように衿を作る。アームホールを先に決め、それに合うように袖を作る。これが一般的で常識的なやりかたですが、僕の場合は、まったく逆になります。どうすればより速く、より簡単に、完成度を高められるか。常にこれを念頭に置きながら仕事をする中で、紆余曲折あみだされた方法論です。

いつも申し上げるとおり、仕事は速さが第一です。ニューヨークのデザイナーズブランドで活躍している僕の友人は言ってました。玉置さん、アメリカは日本の比じゃないよ。1にスピード2にスピード、3、4が無くて5にスピード。いいパタンナーとは仕事を早くこなせる人のことで、いい服が作れる人じゃないんだよ・・・と。恐ろしいですね・・・。しかし気持ちはわかります。稼ぐためにやってる仕事ですから、 完成度ばかりこだわっていても仕方がないのです。たとえ100点じゃなくても、80点でも75点でもいいから、納期を最優先に仕事を組み立てる。これが稼げるパタンナーの考えるべきことです。常識やこれまでの方法論に囚われず、より速く、より高くなるために、新たな方法論にいつも目を向けていなければなりません。

おっと、またお説教になってしまいました。衿と袖ができてしまえば、あとは身頃を組み立て、パーツを取り付けるだけです。まるでプラモデルみたいです。まずは衿と袖の具体的な作り方から見ていきましょう。
 



1. 羽衿を作る

前回作った台衿をイラレでトレースし、これをベースに羽衿を作ります。

前回のメカニズム編で解説したとおり、羽衿の要素はそのほとんどがデザイン的内容です。パターンのメカニズム的な部分は返り線カーブのみなのですが、これも優先順位は低いため、他の要素によって導かれた結果によって、必然的に決定されます。したがってこれをドレーピングで作る必要はなく、サクサクっと平面で作ったほうが、簡単で速いはずです。検証はこれから行う組み立てでやればいいことです。

ここで注意すべきは地の目です。地の目まで指示できるデザイナーは滅多にいないので、これはパタンナーが気を遣うべき事柄です。前回も書いたとおり、特にメンズのシャツ衿は地の目にうるさいものです。あえて外すならそれもアリですが、とりあえず基本は押さえておきましょう。


2. 袖を作る

袖山カーブはデータをダウンロードできます。詳細はTJメカニズム 3…..袖1を参照してください。今回の設定は以下のとおりです。

袖山高さ7cm(1/2で3.5cm)
袖幅23cm(袖ワタリの1/2)

袖山データの4X20を3.5X23に変形させて使います。作り方はムービーを参考にしていただきたいのですが、やはり袖の基本としてアームホールと袖の基本1からアームホールと袖の基本2およびアームホールと袖の基本3をもう一度ご覧いただき勉強してください。ここで注意すべきは、もちろん山カーブです。美しいスムーズなラインを作る、という意識を強く持つ必要があります。同時にそのカーブは、脇面に対してぴったりと張り付くようでなければなりません。平らな面に置いたとき、隙間ができてゆがむようではダメです。脇面に対して無理なく自然に収まるよう、山のカーブを適切なものにしなければなりません。これから行うドレーピングでもしうまく付かないときは、何度でも袖を作り直してください。そしてもう一点、谷底のカーブの連絡についても気を遣ってください。その理由は後で述べます。



3. ダミーの下地作り

さていよいよドレーピングに入りますが、その前に必ずやらなければならないのがダミー作りです。これから作ろうとするアイテム、大きさ、シルエットなどによって、ダミーをそのまま使えることは滅多にありません。

今回はシャツですが、シャツに使えるダミーはあまり多くありません。今回はK+LのGY36を使いますが、肩のしゃくれ、というかノボリというか、とにかくイセも何も無いシャツですから、肩周りをフラットに加工する必要があります。そして肩傾斜。

シャツなどのミドラー類(インナーもそうですが)はアウターの運動機能に影響します。アウターがいくら動きやすくできていても、ミドラーが動きにくいパターンではどうしようもありません。パタンナーは常にこの問題を考えていなければなりませんが、布帛のシャツの場合、僕はたいてい18度前後の肩傾斜でやるようにしています。




4. 身頃作り1

身頃のポイントはいくつかありますが、僕が一番気にしているのがダキ落ちです。前も後も、ダキが落ちている服ほどカッコ悪いものはないと常々思っているのですが、そもそもダキ落ちとは何でしょう。テーラードではよく耳にする言葉ですが、Tシャツでもコートでもダキ落ちはあります。ダキ落ちとは、膨らみのピークから脇にかけて出る斜めシワを指します。後身頃なら肩胛骨の頂点から、前身ならバストの頂点から脇に向かって出るシワのことで、要は肩胛骨のクセとバストのクセの、処理の問題なのです。

テーラードのように切替がたくさん有り、クセがどこででも取れるようなデザインなら問題ありませんが、Tシャツなどは後身と前身の2パーツで、しかも前後中心はワ取りときています。これじゃあ手も足も出ません。だから僕はいつも、テーラードよりTシャツのほうが難しいと言うのです。幸いシャツの背中にはヨークがあります。なので背中はこの切替を利用して肩胛骨のクセが取れます。したがってダキもしっかり入ってくるわけです。しかし前身はそうはいきません。切替など何もないのが普通ですから、裾に向かってハネているバストのクセを、何とかしなければなりません。



5. 身頃作り2

ダキ落ちを回避するため、裾に落ちているバストのクセを分散させます。通常分散させるべき部位はアームホール、肩、衿グリなどですが、僕はたいてい、アームホールと前中心に分散させます。どうしてか。肩や衿グリに分散させるのは、現実問題として無理だと考えるからです。どうして無理なのかという説明は割愛しますが、結果として分散できる部位は前中心しかないのです。しかし前中心に逃がした分は、ピンを外せばすべて下に落ちてしまって、結果として前中心が逃げているのと同じ状態になります。僕はこれでいいと考えます。釦を外しているときは服が外側に逃げますが、釦を掛けると中心が持ち上がり、バストの膨らみとして収まるという仕組みです。とは言ってもほんのわずかな分量です。今回は前中心の衿グリ縫い目付近で約6ミリほど寝かせることになりましたが、これ以上逃がすのは無理です。

さてもうひとつ身頃作りで注意すべき点があります。それは衿グリです。衿グリはハサミを入れるのが難しいため、どうしても切りすぎてしまいがちです。衿がどんな感じに付くか、その予想はあらかじめできていますが、やってみて違うことはよくある話です。切りすぎたらやり直さなければなりませんから、少しずつハサミを入れ、慎重にカットするよう心がけましょう。



6. 身頃作り3

身頃の最後が脇入れです。恐らく身頃で最も難しいのはここだと思います。袖が付くための脇面を作るということと、前後身頃の丈バランスを取る、というふたつの面で重要なポイントです。

詳しくはアームホールと袖の基本2を参照していただきたいのですが、背幅と胸幅のバランスで脇面の角度が決まります。この角度を袖の振り角度と僕は呼んでいますが、服を平置きにしたのではなく、実際に人が着て、腕を降ろした状態の美しさを表現するには、この考え方でパターンを作るしかないと僕は考えています。背幅の分量、前幅の分量、そして脇幅分量と、全体を3面と見る考え方ですが、実際には2枚のシャツであっても、着用したときの立体感はあくまでも3面が基本ですから、こうした面作りを奨励しているのです。



. 袖付け

脇面さえしっかりできていれば、袖付けに難しいことは何もありません。脇面の上に(実際は壁面ですが)紙で作った袖を乗せるだけの話なのです。振り角度はすでに脇面が決めてくれているので、あとは袖の回転角度と山角度を決めてピンを打つだけです。

袖山の高さによって異なりますが、今回のように比較的低い山の場合、袖の回転はたいした意味を持ちません。立体を意識しすぎ、ややもすると強く回転させたくなる傾向にありますが、何事もほどほどが肝要です。この場合はゼロでもまったく問題ありません。

さて一方山角度ですが、これはつまり山の高さの話です。しかし肩幅の一部と山の一部はオーバーラップしていると申し上げたとおり、衿グリやアームホール同様不可分の関係にあります。設計をイメージする段階で、ある程度、肩幅も袖山の高さも決めていますが、思いどおりの表情になるかどうかは、実際に取り付けてみないとわかりません。肩パットの先端が想定する肩幅ですが、今回もそのとおりに付けてみると、ちょっと山が低く感じました。肩幅で約5ミリほど広げて付け直しましたが、この分は、山で高くしてもいいのです。肩で出すか山で出すか、それは全体のシルエットを見て決めることです。

もう一点、袖付けで注意して見ていただきたいのは谷底の形状です。袖下縫い目で折り曲げ、谷はV字型をしています。どうしてこうするのか。シャツのアームホールは普通巻き縫いで処理され、身頃高でステッチがかかります。縫い代の外回りが不足するため、どうしてもアームホールにパッカリングが生じます。これをすこしでも軽減するため、アームホールのカーブをなだらかに(緩く大きく)したいのです。そのために袖底をV字にするのですが、V字だからといって、袖底のカーブの連絡がV字にはなっていなかったことを思い出してください。ここはTopsの袖付けを理解する上で重要なポイントです。



8. 衿付け

これも袖付け同様、簡単な作業です。もちろんある程度の経験は必要ですが、袖を脇面に乗せたのと同じように、衿も、首の上に置けばいいだけです。ただし前中心に於ける身頃との接続にちょっとした経験が必要になります。台衿釦を止めた状態での見え方、台衿釦を外した状態での見え方、時には身頃の第二釦まで外した状態や、前を全開したときの表情までを検証しながらピンを打ちます。

ムービーにあるように、時にはボタンダウンを想定した検証も必要です。ボタンダウンは、衿の返りにロール分を含めることが普通なので、その分量などを計算しながらピンを打ちます。最近は極端にロールを入れたシャツを良く見かけますが、カッコ悪くてイヤになります。何事もほどほど、ですよ。

ドレーピングの仕上げはマーキングです。設計上重要と思われる箇所に、マジックで印を付けます。一ヶ所付け忘れても全てが水の泡となります。慎重にチェックしながら印を付けてください。そして最後。トワルをダミーから外しますが、脇のピンだけは外しません。それは脇が均一な平面になっているかを確認するためです。もしクセが取られて均一でない場合、それは脇が面になっていないという証拠です。残念ですが、最初からやり直してください