衿グリと衿付けは、常にふたつでひとつの関係です。衿グリも衿付けも、単体で存在できるものではありません。衿があってはじめて衿グリがあるのであり、衿グリがある以上、それに相応しい衿が必ず存在します。自分の思い描くカッコイイ衿を付けようと思ったら、そこには必ずその衿に適合した衿グリがあるはずで、衿が変われば、衿グリも同時に変わらなければなりません。

衿グリは衿が決めるというのが僕の方法論です。これは極めて特殊な方法です。しかし特殊だからといって、それが難しいわけでも解りにくいわけでもありません。極めて解りやすく、単純な理論です。にもかかわらず、その方法論でパターンメーキングを行っている人に、僕はかつて出会ったことがありません。僕の知る限り、学校でも参考書でも、世の中のパターンメーキング理論のすべてが、衿グリと衿を切り離して教えています。
まずはじめに身頃を設計し、衿グリはその身頃に含まれる身頃の一部として描かれます。そしてその衿グリに合った衿を設計するという方法でパターンを作ります。しかし僕はこの方法、この考え方に大きな不信を抱いています。どうしてそのような不信を抱いているか。それは単純です。その方法で作ってみて、決していい衿ができないからです。

いい衿ができないと悩んでいるみなさんは、恐らく上記のように一般的な方法でパターンメーキングを行っているからではないでしょうか。例えばドレスシャツを考えてみましょう。皆さんの方法ではまず最初に身頃を描き、それから衿を設計し、その衿を身頃に描かれている衿グリに取り付けるわけですが、ここで良く考えてください。設計した衿が、身頃の衿グリに合致しているという根拠はどこにあるのですか? その衿の衿付け線は、本当に身頃の衿グリに合っていますか? その衿を付けたとき、思い描いたとおり、カッコよく落ち着きますか? 無理なく自然に身頃に治まりますか? 何度も経験して、痛い思いを繰り返したアイテムやデザインならいざ知らず、初めてのパターンメーキングで、思いどおりの衿が作れますか?

恐らくみなさんはトワルを組むでしょう。組んでみて衿の座りや形をチェックします。そして切ったりつまんだり、開いたり閉じたりしながら修正するでしょう。そしてまたトワルを組み、それをチェックするはずです。もちろん僕もそうします。半身で見て、更に両身で見て、気に入らなければ何度でも衿を組み直します。そうしない限り、思い描いたとおりのカッコイイ衿などできるはずがないからです。そうしてできあがったパターンは、平面で設計したものとは似ても似つかないものになっているのが当たり前です。僕はこうした方法を非合理とは言いませんが、どうせトワルを組むのなら、最初のアプローチをドレーピングで行うことによって、少なくとも一回は、トワルを組む回数が減るはずです。

僕の方法はこうです。
まずはシーチングをダミーに張り付け、カッコイイと思われる身頃を作ります。この時点で衿グリはできていません。次に衿を作ります。自分が思い描くカッコイイ衿を、ダミーのネックに無理なく座るように取り付けていきます。このシャツは立ち衿仕上げなのか、潰し衿仕上げなのか。キーパーは入れるのかどうか。前中心のネックポイントはどのような高さに設定すべきか。ネック寸法をいくつにするか。いろいろな要素を考慮しながら、自分が最良と思われる形を作り出してゆきます。そしてカッコイイ衿ができたとき、同時に衿グリができていることにお気付きでしょう。その衿が無理なく座った線が、衿グリになるわけです。ダミーに合わせて衿を作っていけば、衿グリも同時にできてしまいます。そしてこの衿グリは、この衿が最もいい状態で付く形状をしています。つまりこの衿専用の衿グリです。衿と衿グリが常に不可分であるという意味がここにあります。

シャツでもコートでも、もちろんテーラードでも、衿グリはすべて衿が決めます。カッコイイ衿ができ、これが無理なく自然に座ったとき、その座った線が衿グリだと言いました。つまり最初に作るべきは衿なのです。衿があってはじめて、衿グリが決まります。もしドレーピングで衿を作るのが難しいというのなら、次のような方法でやってみてください。

まずは平面製図で作図した衿を用意します。芯を貼ったシーチングをパターンどおりに裁断します。このとき衿付け線は上がりのまま裁断します。この場合アイテムは何でも構いません。頭の中のイメージシミュレーションで、ダミーに衿を取り付けてみましょう。
後中心のネックポイントにピンを打ち、衿が綺麗に無理なく座るよう、前中心に向かってダミーに沿わせます。このときサイドネックポイントなど、途中にピンは打たないでください。衿が無理なく沿うよう、ピンはできるだけ少なく打たなければなりません。前中心まで来たらピンで止めます。衿付け線が身頃から浮いていたり、衿に不自然なシワが出るようではダメです。そんなときはピンを外し、もう一度やり直してください。重要なことは、後中心のネックポイントやサイドポイント、また前中心のネックポイントなどを、自分で勝手に決めないということです。あくまでも衿が自然に、無理なく治まるところでピンを打たなければなりません。またダミーの縫い目などにも惑わされてはいけません。衿が自然に無理なく治まれば、その衿が付いている付け線を、マジックなどでマークしていきます。マーキングが終わったら衿を外してください。どうですか。そこにはその衿に合った、最適の衿グリが描けているはずです。

僕はこの方法でパターンを作っている人を見たことがないと言いました。そしてこの方法は人と違っているという意味に於いて特殊であると言いました。しかし上記のシミュレーションをやってみてどう感じますか。理に叶った合理的な方法だとは思いませんか。また極めて簡単な方法だとは思いませんか。平面製図のように頭で考え、計算から導いた結果ではありません。衿が勝手に作ってくれる線を、素直にトレースすればいいだけのことです。
前述したとおり、僕が平面製図をやらない理由のひとつは、最初からドレーピングでやったほうが、結果として仕事が早いからです。ほとんどの場合、両身でのチェックは一度で完了します。しかもドレーピングは頭で考えてやるのではありません。目で見ながら、いい形を造りあげていくだけです。それは彫刻家の仕事に似ているかも知れません。考えるのではなく、感じるのです。感じたままにピンを打ち、鋏を動かしてゆくだけです。したがって自分の思い描いた形状ができあがるのは当然です。そうしようと思いながらの作業なのですから、バカバカしいほど当たり前の話です。
実技編では何回かに分けて、いろいろな衿の作り方を解説します。
平面製図でいい衿が付かないと嘆く前に、一度トライしてみてはいかがでしょうか。