1. サイズスペックの確認

今回はシャツのグレーディングです。
ここで取り上げるシャツは男性用のドレス物ですが、ある程度バストにゆとりの含まれる上物アイテムなら、男女を問わず、このグレーディング方法が参考になると思います。基本は前回のTEEシャツとまったく同じです。ポイントは、各サイズで変化させない部分、共通部分を持たないということです。つまり全てのパーツがグレーディングされるわけです。

通常みなさんがやっているグレーディングなら、ほとんどの場合、前立幅は共通ですね。それから背中のタック量、場合によってはポケット、衿まで共通にしているのではないでしょうか。台衿や羽根衿はシャツの顔とも言える重要な部分です。これが各サイズで共通というのは、僕に言わせれば手抜き以外の何物でもありません。マスターのサンプルチェック、またはトワルチェックで、衿などは1ミリ単位の細かいバランスで完成度を高めているはずで、ならば、各サイズでもそのバランスは維持されなければ、チェックした意味が何もありません。そんなことは解っていても、ハンドグレーディングやCADのグレーディングでは、それを実現するのにとても煩雑な行程を経なければなりません。だからこそ共通にしてしまうのですが、それはやはり、手抜きです。マスターの微妙なバランスとデザイナーの意図を正確に店頭に運ぶためにも、比例バランスグレーディングの合理性を認識していただきたいと思います。

下図は今回の絵型とサイズスペックです。前回のTEEシャツ同様、まずはバストのピッチでEXCELのピッチ表を作ります。もう一度ピッチの出し方を解説します。マスターのバスト90に対し、サイズ4の人は86なので、95.56%の縮小となり、ピッチは0.9556となります。またサイズ6の人はバスト94なので、104.45%の拡大となります。ピッチは1.0445ですね。 これを入力して各サイズの計算値を見てみましょう。





2. ピッチ表の作成1

下図は入力し終わったピッチ表です。
ぱっと見て、全体的に問題はなさそうですが、一番気になるのはサイズ4の肩幅です。前回のTEEシャツ同様、袖丈を小数点第二位まで表記したくないので、肩幅はできるだけ偶数で納めたいのです。今の数値が43.95ですから、できれば43.8か、44にしたいところです。ここで大は小を兼ねるという大原則が生きてきます。小さくぶれるより大きくぶれた方が既製服としては正解です。あと0.05センチ、つまり0.5ミリ(半身では0.25ミリ)増えれば44ときりもいいので、ここは44になるピッチを求めます。44は46の95.66%なので、ピッチ0.9566をピッチ表のピッチ欄に入力します。







3. ピッチ表の作成2

下図のようになりました。肩幅が44になるピッチでグレーディングすると、各部位の数値はこのようになります。特に問題はありませんが、ここでひとつ気になるのはサイズ6のネックです。

サイズ4のネックピッチが1.8に対し、サイズ6は1.7です。仕様書のサイズスペックには小数点以下第二位は切り捨てて記入するのがルールですから、実際は41.78とほとんど41.8にも関わらず、このままでは41.7と表記せざるを得ません。特に百貨店なので売られるケースが多いシャツの場合、男性客にとってネックサイズは重要です。また販売員にとっても、マスターを挟んで上下のサイズでピッチが違うというのは解りにくい話です。そこで何とかサイズ6の41.78を41.8にしたいと思います。

41.8にするためには104.5%の拡大になります。今度はネックのピッチでグレーディングするわけです。真ん中の表がその結果です。当然のことながら肩幅やバストも若干大きくなっています。 しかし表記の上で特に問題はありません。ただ今度は、カフス幅が気になってしまいました。

22.99はほとんど23ですが、このままでは大は小を兼ねるの原則から22.9と表記しなければなりません。23になるようなピッチ104.55%で拡大したら、その他の部位に問題は出ないでしょうか。結果が右の表です。バストから羽根衿前丈までを検証します。どうやら特に問題はなさそうです。あとは気にする箇所が見あたりません。これでいいことにします。





4. 完成サイズスペック

下図は完成したサイズスペックです。右はグレーディングピッチと修正内容をメモしたものです。サイズスペックの胸囲、胴囲、裾囲を赤字で記してありますが、ここに比例バランスグレーディングの特徴が大きく現れています。

設計基準の体格では、バスト、ウエスト、ヒップの差寸は各サイズとも4cmピッチでした。みなさんの感覚でピッチ4cmと言われれば、このシャツのバスト、ウエスト、ケマワシがそれぞれ4cmずつ動くと考えます。しかし比例バランスグレーディングは違います。ピッチ4cmというのはあくまでも設計基準の体格であり、ピッチはそれをパーセンテージで表したものです。つまり着る人の体格がそう変化するのであって、服そのものが4cmで変化するわけではないのです。またもうひとつの特徴として、ピッチは常にひとつであることです。今回はまずバストで試し、次に肩幅のピッチで試し、最後はカフスのピッチを使ってグレーディングをしました。前回のTEEシャツでも述べましたが、このアイテムはどこが重要な部位かということなのです。

左図赤字で示した胸囲、胴囲、裾囲は、みなさんの感覚からは重要な部位かも知れませんが、僕らの感覚ではまったくどうでもいい箇所なのです。なぜなら、マスターの107という寸法は、設計基準のバスト90に対して17cm(約19%)ものゆとりが含まれているからです。それに対し、ネックは1~2cm(約2.5~5%)しかゆとりが含まれていません。しかも上記したとおり、男性客にとって、ネックは裄丈とともに重要な部位なのです。したがってこだわるべきはネックや裄で、バストなどは、結果が何センチの変化だろうが大した問題ではないのです。これでグレーディングの準備が整いました。実際にパターンをグレーディングしてみます。





5. グレーディング作業1

まずはマスターを中心に、上下に各サイズ分のパターンをコピペで配置します。左図ではサイズ4をブルー、サイズ6を赤で表示してあります。ここで最初にやるべきは、前回のTEEシャツ同様サイズ表示の変更です。これは案外忘れがちで、グレーディングはされているのに、パターンのサイズ表記がマスターのままというのはよくあることです。工場の混乱の元となりますので、この作業は忘れずに最初にやりましょう。イラレの「検索・置換」を使ってサイズ表記を変更してください。





6. グレーディング作業2

さてグレーディングの開始です。上記のピッチと修正内容を手元に置き、まずはサイズ6からはじめます。袖のケンボロを除くサイズ6の全パーツを選択します。拡大縮小ツールをダブルクリックしてパレットを出します。「縦横比を固定」にチェックを入れ、ピッチ104.55と入力してOKを押します。衿リブを除く全パーツが拡大されます。





7. グレーディング作業3

左図のとおり着丈と袖丈を修正します。サイズ6のグレーディングはこれで終わりです。ただしまだ作業が残っています。シャツの場合、共通パーツは袖のケンボロのみとしました。その他はすべてマスターと同じ形状を保ったまま拡大されましたが、それはつまり、ボタンホールや袖のケンボロ開き止まりまでも拡大されています。それらをマスターのものに戻す作業が残っているのです。ここで入れ替えなければならない部品は以下のとおりです。

1. 釦ホール(台衿、前中心、カフス)
2.  ケンボロ開き止まり(位置は正しい)





8. グレーディング作業4

変更作業が終わったら次はサイズ4のグレーディングです。サイズ6と同じ要領で縮小し、着丈と袖丈の修正が終わったら最後にボタンホールとケンボロ開き止まりをマスターのものと入れ替えます。

すべての作業が終了したら、最後にネスト図を作り検品します。前回も言いましたが、検品はグレーディングの善し悪しを見るのではありません。グレーディングされているかどうかと、修正箇所が正しく直っているのかを確認するためです。

グレーディングの流れと方法はほとんどご理解いただけたと思いますが、もう一度流れをおさらいしておきましょう。

1. ピッチ表を使って適正ピッチを算出
2. 縦方向と細部数値の検証と修正
3. ピッチと修正内容に従ってグレーディング