1. クリースラインと袖

テーラードジャケットのグレーディングで最も重要なのは、顔とも言うべきクリースライン、ラペル、上衿が、マスターと同じバランスできっちりグレーディングされているかどうかです。下図左側の赤丸部分がそうですが、もう少し具体的に言うと、まずクリースラインは、マスターと同じ傾斜を保たなければなりません。同じ角度を保持したまま、各サイズが拡大縮小されなければならないのです。そうなると、クリースラインに連動して設計されている上衿の返り線も、同じくマスターの傾斜を保持しなければなりません。もしもラペルのクリースラインと上衿の返り線との角度が変化してしまったら、ゴージ部分がキンク(折れ曲がる)することになり、仕上がりに於けるまともな顔は望めるべくもありません。さらにゴージの角度やキザミのバランスなど、ジャケットの顔であるフロントの衿周りは、バランスを崩すことなく、マスターと同じ表情でグレーディングしなければなりません。

もうひとつテーラード物で重要なのは袖です。下図右側の赤数字のように袖にはイセが入っています。このイセ分を正確にグレーディングできるかどうかがカギなのです。 皆さんのグレーディング方法では、イセ量を長さの単位であるセンチで操作しますが、これがしばしば間違いを起こします。マスターのイセ量が適正であった場合、各サイズのイセ量バランスを保持するために、センチではなく、比率の単位であるパーセントで変化させなければなりません。

例えばマスターのアームホールが50cmで、イセ量が全体で3.5cmだったとき、アームホールに対するイセの比率は7%になります。ならば上下各サイズのイセ量も、7%でなければ見え方が変わってしまいます。生地の厚みが変化しないのですから、長さに対する比率でグレーディングするというのは当然のことだと思うのですが、皆さんから疑問の声を聞いたことがありません。

僕は昔、手作業やCADでテーラードのグレーディングを行う際、常にこの問題に直面していました。クリースラインや上衿返り線の角度を保持したままのグレーディングができない、イセ量比率を保持したグレーディングができないと悩んでいたのです。そしてこの悩みが、相似形の変化を思いついたひとつの要因でもありました。相似形で変化させる以外、マスターのバランスを保持するグレーディングは不可能なんです。つまりこのようなデリケートなグレーディングにこそ、比例バランスグレーディングは向いているということなのです。





2. 絵型とサイズスペック

下図が今回の絵型とサイズスペックです。
例によってEXCELでピッチ表を作ります。横方向のピッチはバストを基準に考えればいいと思いますが、このジャケットも前回のシャツと同じように、ヌードに対してバストは18cmものゆとりが含まれているため、バストは大して重要なわけではありません。それよりも肩幅とかネックが重要になると思われます。しかしそれらの設計基準はないのですから、便宜的にバストを基度として用いるわけです。以下のとおり、結果としてピッチは前回のシャツと同じ値になります。

サイズ4のピッチは0.9556。
サイズ5のピッチは1.0445。





3. ピッチ表の作成1

下図は入力し終わったピッチ表です。
ぱっと見て、全体的に問題はなさそうですが、やはりシャツと同じように、一番気になるのはサイズ4の肩幅です。袖丈を小数点第二位まで表記したくないという問題が、上物のグレーディングでは常に付いてまわります。肩幅はできるだけ偶数で納めたいのです。今の数値が40.13ですから、できれば40.2にしたいところです。ここで大は小を兼ねるという大原則が生きてきます。小さくぶれるより大きくぶれた方が既製服としては正解です。40.2は42に対して95.72%なので、ピッチ0.9572で再計算してみます。





4. ピッチ表の作成2

下図のようになりました。肩幅が偶数になり、他は特に問題はありません。後は縦方向の着丈、裄、袖丈、ベンツ深さをどうするかですね。これまでのシャツやTEEシャツの場合、身長のピッチを縦方向の基度としました。ちょっと計算してみましょう。

サイズ6の身長のピッチ…………102.95%
サイズ4の身長のピッチ………… 97.06%
この数値から着丈を計算すると、
サイズ6の着丈…………74.1cm
サイズ4の着丈…………69.8cm

となります。





5. ピッチ表の作成3

冒頭に書いたとおり、テーラードは特にマスターのバランスを重視したいという思惑があるため、上記の計算結果では、僕には少々変化が小さいように思います。つまり横方向と縦方向のバランスが悪くなると思うのです。そこで僕なら、勝手ではありますが、
サイズ6の着丈を…………75cm
サイズ4の着丈を…………69cm
にします。

さらにこの着丈の変化比率を利用して裄丈とベンツの深さを決定します。 左図が最終的なピッチと、グレーディング後の修正内容です。後は実際にパターンを拡大縮小するだけです。方法はこれまでのTEEシャツやシャツと同じなので省略します。