1. サイズスペックの確認

パンツピッチの基度は、ヒップが基本です。しかし後述するように、デザインによってはウエストを基度にすることも多いと思います。ここではとりあえずヒップから算出してみます。

設計基準表を見てください。MASTER(サイズ5)のヒップ94cmに対し、サイズ4は90cmなので、ピッチは95.75%になります。またサイズ6は98cmなので、ピッチは104.26%です。

これを元にピッチ表を作成しますが、パンツのグレーディングをはじめるに際し、注意するべき点を以下に記します。

まずは各サイズ間でピッチの付かない箇所を確認します。今回のようなデザインなら、ウエスト裏はマーベルトを使ったり、専用のウエスト芯を使うこともあるはずです。そうなると付属にピッチは付けられないので、ウエストベルトの幅(高さ)は各サイズで共通ということになります。ベルト幅が変化しないのであれば、ループも変化させないほうがいいかも知れません。もちろんボタンホールもピッチは付けられませんので、ベルトは、全体的に比例バランスではグレーディングできないことになります。

次に考えるのは前ファスナーです。付属手配に際し、ファスナーのピッチは通常1cmです。上記のピッチでグレーディングした結果、うまい具合に1cmピッチが付くということは滅多にあり得ないので、ここはグレーディング後に調整が必要となります。

ポケットについても考え方は同じです。縫製工場によっては自動機(玉縁を自動で作る)を使う場合があり、そうなるとポケット口幅に相似形でピッチを付けることは困難になります。ポケット口がファスナーになる場合も同様となるため、ポケットもグレーディング後に調整が必要になります。







2. ピッチ表の作成1

下図は上記ピッチに従って計算されたピッチ表です。
まず気になるのはサイズ6の裾幅です。ほとんど21.9ですが僅かに不足しています。そしてサイズ4のヒップです。前ヒップとは前身のヒップ寸で、後ヒップと合計した数値がヒップですが、 サイズ6が約1cm動くのに対し、サイズ4は2ミリほど不足しています。このままでも特に問題はありませんが、気分的にもスッキリしないし、もう少し何とかしたいところです。

さらに気になるのはサイズ4のウエストです。
図中赤丸で示したように、このデザインのパンツにとって、ウエストのピッチはかなり重要です。サイズ6はマスターより3.6cm大きくなっていますが、サイズ4を81.3と表記すると、差寸は3.7cmとなり、等ピッチになりません。できることなら81.4に上がって欲しいところです。





3. ピッチ表の作成2

下図はとりあえず上記の要件が満たされるようピッチを変更して再計算したものです。サイズ6は裾幅が21.9になるピッチに、サイズ4は後ヒップが24.8になるピッチで計算されています。わたりも前後1.3cmの等ピッチとなり、全体にすっきりしました。しかし肝心のウエストが81.7となり、0.4もオーバーしてしまいます。大は小を兼ねるという大原則からすれば、実際のパターンのウエストが、表記する81.4cmより0.4cm大きく上がっているわけですから、これでも大した問題は出ないでしょう。しかしどうしても81.4にしたいのであれば、再度計算をやり直さなければなりません。しかしウエストが81.4になるようなピッチで計算したとき、今度はヒップが理想から遠ざかることになります。

そこでもう一度検討しましょう。図中赤丸で示したヒップですが、マスターとサイズ4との差寸を見ると、サイズ6はどちらも0.1オーバーしているので、もう少し拡大率を落とすことができそうです。





4. ピッチ表の作成3

下図は前ヒップがぴったり26になるピッチ104%で再計算したものです。ウエストはサイズ4の差寸3.3に対し、サイズ6は3.4になっていますが、大は小を兼ねるの原則から88.3と表記すれば等ピッチになります。またサイズ6の裾幅は21.9には届きませんが、これは異ピッチのまま21.8と表記しなければなりません。

ここで皆さんが気になるのはウエスト寸ではないでしょうか。
ゴムやアジャスターの付かないパンツで、ウエストのピッチが3.3というのはおかしいと感じるでしょう。皆さんが行っているグレーディング理論からすれば、その気持ちは良く解ります。しかしシルエットを崩さないことが前提となる比例バランスグレーディングでは、ヒップを優先すればウエストが準じ、ウエストを優先させればヒップが準じます。ウエストもヒップも同じ場合を除き、両者のピッチが同寸になることはあり得ません。したがってもしもウエストを3.5cmまたは4cmというように、切りのいい数値にしたければ、ウエストを基度として再計算する必要があります。

下図はウエスト寸法差3.5cmを優先したピッチ表です。サイズ4のヒップ差寸はサイズ6に比べて0.1少なくなりますが、これでもまったく構いません。もちろんサイズ4のヒップ表記は48.7となりますが、店頭などの表記にヒップ寸が出ることはあまりないので、こちらの方がより良いピッチかも知れません。





5. 完成サイズスペック

さてピッチ表が完成したら後はグレーディングです。グレーディング後の修正、調整を左図のとおりにまとめます。膝や太腿付近の中間部に特にデザインがなく、なおかつ裾上げをしたうえで着用するパンツであれば、股下は全サイズ、長めの共通にするのが普通です。極端なテーパードパンツでなければ、結果で得られた股下に、5cmなり10cmなりの平行の縫い代を付加すれば問題ありません。

中間部にデザインがある場合は、比例バランスグレーディングの特徴を生かし、股下はなるべく相似形に近くなるよう調整をします。通常股下のグレーディング基度は身長となるので、 サイズ4のピッチは97.06%、股下寸は77.6cmになり、サイズ6のピッチは102.95%、股下寸は82.3cmになります。この場合は上記の理由から、それぞれ77と83に調整すれば問題ありません。