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アームホールと袖の基本 3



山の高い袖は動きづらい。山の低い袖は動きやすい。一般的に、袖山にはこのような認識が持たれています。もちろん間違いではありませんが、これは袖を運動機能から捉えた側面です。
一方腕を降ろした状態で自然に立ったとき、シワの出ない美しい袖を作るためには、袖山は高くなければならないとも考えられています。これは見た目の美しさから捉えた側面ですが、シワの出ない分だけ腕を上げるのに苦労します。電車の吊革につかまろうと思ったら、身頃ごと上に持ち上がってしまいます。
袖の運動機能と美しさは両立できない関係なのでしょうか。袖を作る上で、僕はこの点がとても難しいと考えています。恐らくみなさんもこの意見には同意していただけると思います。シワの出ない美しい袖を作りたい。しかし運動機能も兼ね備えたい。こうした条件を備えた上で、果たして袖山の高さはどのくらいに設定すればいいか。
 

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1. 肩幅と袖山の関係

最近はタイトなシルエットが流行っているため、肩幅が極端に狭い服が目立ちます。肩幅が半身で15cmもない服をよく見かけますが、見るからに窮屈そうで息が詰まります。もちろん袖山は高くなっているのですが、イセが十分ではないため、上腕部がパンパンに膨れあがっています。

仮にこのような身頃に、山の低い袖を付けるとどうなるかを想像してみてください。これはまったく着ることができなくなります。腕を水平に上げた状態ならいいのですが、下に降ろせないのです。腕を降ろすと、肩先に向かって、左右から身頃が引っ張られることになり、サイドネックポイントは両側に広がり、首は前後から圧迫されて苦しい限りです(図21)。
 

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身頃だけで着用すると何でもないのに、袖を付けるとこうなってしまう。そんな経験はみなさんにはありませんか。もしそんなトワルを組んでしまったら、そしてなぜそうなるのか原因がわからなかったら、試しに袖グリを、下図22の要領で上半分だけ切り開いてください。腕は楽に降ろせるようになり、上記の問題は解決するはずです。

切り開いた分が不足していたため、上記のような現象が起こるわけですが、その分は、山の高さであると同時に、肩幅でもあるという点に注目してください。したがって切り開いた分が仮に7cmあったら、それは肩幅と袖山の両方で配分すことができます。どう配分するかはみなさんの自由です。もしも肩幅だけでこの分を吸収するなら、肩幅は半身で22cmにもなりますが、肩先は落ちてくれるため、腕は自然に下げることができます。下げても引っ張られることはなくなるので、袖無しの身頃を着用しているのと同じ見え方になるはずです。
 

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では逆に、この広い肩幅の服に、山の高い袖を付けたらどうなるかを想像してみてください(下図23)。

袖無しの身頃を着用したときは何でもありませんが、袖を付けた状態では、山の高さ分だけ余りが生じ、肩先から袖の上部にたまってしまいます。それは腕を上げるほど顕著になり、動きにくいばかりではなく、とても醜いシルエットになってしまいます。男性用のコートなどでこういった服を良く見かけますが、何とかならないのでしょうか。

腕を下に降ろすためには、袖か肩幅にその分の分量が含まれていなければなりません。また腕を上に上げるためには、降ろすための分量が邪魔をします。袖山と肩幅は、常にこの関係で連動しています。「アームホールと袖の基本 2」でも書いたとおり、袖山の一部は肩幅であり、肩幅の一部は袖山でもあるというのは、こういう意味なのです。

 

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山の高さをどれくらいにするのか。肩幅はどれくらいにするのか。
もちろんそれに答えなどありません。袖の幅をどのくらいにするかによって谷底、つまりカマの深さが変わってくるし、山の高さはその谷底から計測するわけですから、ただ経験だけを頼りに、適当なたたき台を作る以外に、それを決定する方法などありません。山と肩幅の関係性を理解した上で、双方から歩み寄って折り合いを付ける以外にないのです。しかし上記の解説からもおわかりのように、袖山の高さと肩幅には一定のルールがあります。それは、肩幅が広くなるほど袖山は低くなり、 肩幅が狭くなるほど袖山は高くなる、というものです。このルールは全てのアイテムに共通している、いわば原則のようなものですから、常に念頭に置いておく必要があるでしょう。

身頃を先に製図するみなさんの方法なら、アームホールの距離が先に出るため、それを元にした割り出しの公式をよく見かけます。テーラードの教科書などがいい例ですが、アームホール長がこれだけなら、袖山はこの程度にしなさい、という具合に解説されています。しかし僕の場合はこうはいきません。とにかくアームホールは結果として出るのですから、このような割り出しを使うわけにはいきません。ならばどうしているのか。カンです。それも経験則を根拠としたベテラン刑事のカンではありません。まったく適当な、ほとんど当てずっぽと言えるほどいい加減なカンに過ぎません。もちろん長くやっているのですから、ある程度の予想は付きます。しかし実際に付けてみなければ、この袖が服全体のバランスにどんな影響を与えるのか、そして人が着用して機能する範囲はどの程度なのか、まったくわかってないのです。ですから、最初のドレーピングの段階で用意する袖はほとんど「たたき台」でしかありません。どうせたたき台だし、何度も袖を作り直さなければならないことがわかっているので、いい加減なものから始めることにしています。そんな方法って面倒で時間がかかるんじゃないか。そう思われるかも知れませんが、僕の袖はいたって単純なため、しかも前述したとおり紙で作りますから、まったく苦にならず、かつ早くできるのです。何度でもやり直しながら、理想的なかたちにまで昇華させることができます。
 

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2. 最終形

最後に袖の取り付けが終わったトワルの写真をご覧いただきます。赤のマジックペンで印を入れてあるのがお解りかと思いますが、これが袖の切断面、アームホールです。

こんないい加減な印で解るのか? そうです。わかるんです。これをスキャンしてイラレでトレースするわけですが、そのためにはこの程度で十分です。写真が斜め上から撮ってあるので解りにくいかと思いますが、アームホールはやや縦長かつ、下が少し細くなっている逆涙型です。

山の位置と脇の位置が赤丸で記してあります。ちなみにこの場合、回転角度はほとんど付けていません。身頃の山が袖山の頂点と重なるように取り付けてあります。したがって脇の位置もほぼ正脇になると思いますが、後で計測したところ、1.5cmほど前にずれていました。これは前幅、脇幅、背幅のバランスの問題ですが、振り角度が前寄りに傾いているためです。背幅に対する前幅は2cmも狭くなっていたので、これはちょっとやり過ぎかな、と思っています。いずれにしろすべて結果論です。だめだったらやり直すのが僕のやり方ですから。
 

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Copyright Koichi Tamaki