ドレーピングの結果をイラレでトレースします。考えてみると、昔はこれをすべて手作業でやっていたわけですが、イラレに出会ってからというもの、もう鉛筆を持つことさえ滅多になくなってしまいました。それが良いことなのか悪いことなのかは解りませんが、元に戻れない、ということだけははっきりしています。 ちょっと脱線しますが、我々はコンピュータという、人間がかつて経験したことのない新しい道具を使うようになったわけですが、これは本当にすごい機械です。プラスとマイナスしかない電気が、どうしてこんなすごいことになってしまうのか。僕はただただ感激するだけなのですが、僕のようにドレーピングを主体とするパタンナーは、コンピュータの恩恵の半分しか受けていません。パターンメーキングの本質的部分であるドレーピングという作業そのものは、手作業でしかできないためです。これを3Dでやってしまおうというソフトがいろいろ開発されていますが、僕の見る限り、使い物になるまでにはあと50年はかかりそうです。したがって少なくとも僕の生きている間は、パターンメーキングは、手作業でやらなければならないことになります。しかし僕はそれでいいと考えています。これから行うトレース作業が良い例ですが、こうした平面作業を、短時間で、しかも正確に、創造性を落とさずにできるようになったのは、やはりコンピュータのおかげです。というよりイラストレータという、画期的ソフトのおかげなのです。手作業ではややもすれば手を抜きたくなる平面作業の場面で、緊張感を維持しながらこういった単純な作業に取り組めるのも、やはりイラストレータのおかげだなと、常々思うのであります。1995年、どうしてもCADを受け入れられなかった自分を思い出しますが、イラストレータを選んだ自分を、褒めてあげたいと思っています。さて、トレースです。 |
1. トレース1 トレースは、基準線が水平または垂直になるよう、スキャン画像を回転することからスタートします。身頃のどこを基準線とするかは、ケースバイケースで変わるでしょうが、身頃であれば中心線、袖ならば地の目というのが普通だと思います。画像の隣に垂直線(時には水平線)を置き、トレースした中心線と画像を同時に選択し、回転させるというのがミソです。イラレでのトレースでは必ずこうして基準線を水平または垂直にしてから始めますが、それは衿グリなどのハンドルを、基準線に対して直角に保ちたいからです。もちろん後からその部分を修正しても構わないのですが、最初に水平垂直を決めておく方が、仕事が速いからです。 |
2. トレース2
基準線の水平または垂直を最初に出しておけば、後のトレースはとても簡単です。画面を全体が見える程度に引いて(ズームアウト)おき、全体を大まかに描いてしまいます。
次にズームアップし、肩先や脇など、各ポイントを正確に捉えながら、カーブの形状などを注意深くトレースします。何度も同じことを言いますが、トレースは必要最小限で行います。例えばバスト線などの案内線やノッチなどをトレースすることは、例え袖にイセのある身頃の場合でもあり得ません。後からできる作業は、すべてイラレの機能を使って後から描画します。
3. トワル用パターンの作成
僕の考えでは、パターンメーキングとは、具体的にふたつの作業から成り立っています。ひとつは最初に行うドレーピングです。これは特に説明は不必要かと思います。ではもうひとつは何か。それがこれから行うトワル用パターン作成です。
上記2までに、ドレーピングの半身をトレースしてきたわけですが、ここまでの段階では、縫い合わせる距離も合ってないし、着丈や肩幅なども、想定した寸法から微妙にかけ離れているはずです。トワル用パターンの作成とは、これらの要素のつじつま合わせるための後処理に過ぎないのですが、実はここがとても重要です。ここから先の作業はすべてイラレによる平面作業ですが、ここで間違った処理をしてしまうと、ドレーピングでせっかく得た情報も台無しになってしまうばかりでなく、すべてが水の泡に帰してしまいます。僕はパターンメーキングにかかわる一連の作業の中でも、このふたつの作業に最も多くの注意を払い神経を集中しています。ここはとても重要な場面です。