パンツのメカニズム 5 地の目と裾位置
パンツのドレーピングは、通常ウエストから太腿の中間くらいという、中途半端な丈で行います。まるでショートパンツを作っているみたいですが、膝から下の脛部分、そして裾口は、原則として平面で操作します。そのほうが早くて正確だからです。 そもそもパンツはヒップ、太腿、脛という3本の単純な筒からできているわけですから、本来ならすべてを平面製図でやったほうがよっぽど早くて正確にできるのではないかと思います。しかしパンツの肝であるヒップと太腿の接続部、シルエットによって変化する尻グリと内股線などは、なかなかこれらを平面で導く方法論がありません。だから仕方なく? ドレーピングをやっているわけですが、やるのは肝となる部分のみで十分だということです。コンピュータという新しい道具でパターンをやっているのですから、平面でできるところはできるだけ平面でやったほうが効率的です。 アイロンによるクセ取りを行わない場合、それはつまりセンタープレスをしないパンツの場合という意味ですが、地の目と裾位置は自由に決めることができます。しかしだからといって、デタラメにどうやっても構わないというわけではありません。根拠のしっかりした必然的な位置を求めなければなりません。今回はその方法を解説します。 |
1. 地の目と裾位置の基本 肝である尻グリと内股線を求めるためにドレーピングをするのだと言いましたが、脇線(脇位置)もまた、ドレーピングの段階で決定すべき要素のひとつです。下のムービーはイラストレータによる平面操作をキャプチャーしたものですが、地の目と裾位置の基本的な決め方を表しています。 ポイントは、前身の脇線と内股線が成す角度を等分する線が地の目(折山線)となる点です。そして裾線は、地の目線に対して必ず直角に交差しなければなりません。 そしてもうひとつのポイントが後身頃の地の目の求め方です。アイロンのクセ取りが無く、なおかつ伸ばしやイセを入れないという前提ならば、脇も内股も、縫い合わせの距離は必ず前身頃と同じ長さで揃えなければなりません。脇と内股の長さを前身と揃え、後身頃のパターンが膝位置で水平になるように置き変えたとき、後身頃の地の目は必然的な結果として決まります。勝手に決めるわけにはいかないのです。これが基本です。 |
2. シルエットを検証する 1
左の写真Aは上記の基本どおりに裾位置を決めて作ったトワルです。センタープリーツを入れない、アイロンのクセ取りをしない場合、パンツのシルエットは写真のような床置き状態でしか判断できません。もちろん人やダミーが着用すればもっと縦長に見えるでしょうが、クセ取りをしたときのようなストレートなシルエットには決して見えません。
これがもし女性用のパンツならば、ちょっとX脚に見えるAのようなシルエットもありかも知れませんが、少なくともメンズのカジュアルパンツでは許されないシルエットだと僕は思います。右Bのようなシルエットになるべきだと思うのです。
基本どおりにやるとX脚になる、というのもヘンな話に聞こえるかも知れませんが、実はセンタープリーツを入れない、つまりアイロンのクセ取りをしない場合の一般的なパンツは、ほとんどがこうなっているのです。
クセ取りが前提になっているということは、写真のようなたたみ方はしないという意味です。いわゆるスラックスたたみが前提ですから、パンツを正面から見るという感覚がありません。シルエットはあくまでも横から見ます。内股と脇線のカーブをすべてお尻に追い込んだ、横向きのシルエットを想定しています。だからこのことに気付かないのです。つまり一般的なパターンは、あくまでもクセ取りとセンタープリーツを前提として作られているため、その方法で地の目や裾位置を決めてしまうと、パンツはどうしてもこのようなX脚シルエットになってしまいます。下のムービーはパターンでそれを検証しているところです。
3. シルエットを検証する 2
パターンの前中心を垂直にし、左右を反転して検証するなどということは、恐らく多くの方々はやってないと思います。前述したとおりクセ取りを前提とするならば、もちろんこんな検証は意味がないでしょう。しかしクセ取りをしない以上、パンツのシルエットは側面ではなく、正面から検討するべきです。脇線や内股線をなるべくストレートにしろと、僕が口やかましく言う根拠がここにあります。人のシルエットは人によって様々だと思われがちですが、特に男性を、真正面と真後から良く観察してみてください。ウエストからヒップ、太腿から脛にかけて、それほどカーブしているでしょうか。意外に真っ直ぐなもんですよ。
問題は女性です。
女性を同じ位置から観察すると、男性とは明らかに違います。女性のパンツは、ひょっとしたら、このようなX脚でもいいのでしょうか。これは今後の僕の課題です。みなさんも一緒に考えてください。
さて上記の理由から、地の目と裾位置は求めたいシルエットに応じて自由に変化できるわけです。実際のパターン操作を見てみましょう。
4. 地の目と裾位置を変更する
正面から見た時のシルエットをストレートにするため、地の目と裾位置を傾けました。基本でやったときと比べ、大幅に変化したことが解ります。
このように地の目と裾位置は求めるシルエットに応じて変化させなければなりませんが、常に前身が主体となることを念頭に置いてください。後身はあくまでも結果です。前身の変化に応じて、必然的な結果として変化します。
そしてもうひとつ、とても重要な点が浮かび上がってきました。ムービーをご覧になってすでにお気付きかと思いますが、いわゆる「ネカシ」という概念がまったく役に立たないということです。役に立たないというより、この概念が自由な発想を束縛していると言っても過言ではないでしょう。ネカシなどというものは、パターンの置き方ひとつで様々に変化してしまう(そう見えるだけで実際は何も変化していない)ものだという点に注目しなければなりません。こんなことに囚われて自由なパターンメーキングができないとしたら、それはとてもつまらないことだと思います。メカニズムを良く理解し、しっかりした根拠に基づいた仕事をやるべきです。