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理想のダミーを求めて 4

2012/01/23


ここまでの原型作りに多くの時間を割いてきた我々ですが、これまでの作業のすべては、雌型(めがた)と呼ばれる、張り子型を取るための作業でした。雌型こそが原型師の仕事の最終目的でもあり、原型師のすべての作業は、雌型完成という感動のクライマックスのために存在します。

この型を元に何百何千もの製品を作るのですから、雌型は、我々洋服屋に於けるパターンそのものです。僕はパタンナーを服作りの中心的存在だと言い続けて来ましたが、雌型作りを目的とした原型師は、パタンナー同様、ダミー作りの中心的役割を担っています。彼らの仕事がヘボければ、すべてのワークフローを台無しにしていまいます。それどころか、ビジネスそのものが成立できなくなる可能性さえあります。彼等の質の高さが、その企業を支えているのです。パタンナーも同様ですね。なんとも身の引き締まる思いです。今回の映像は、ダミー作りのクライマックスとも言える雌型作製のシーンです。
 

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身切り線作製と一層目石膏の注入

原型と雌型は陰と陽の関係にあります。夜と昼、善と悪、裏と表。どちらか一方では存在できない、不可分の関係にあります。
何とも哲学的な仕事ですね・・・ウ~ム・・・

雌型の材料は石膏です。石膏は約30分ほどで硬化を始めますが、一気に固くなるわけではなく、時間の経過と共に段階的に固まっていきます。曲面で流れやすい原型の表面を、その硬化具合と時間経過を計算しながら、少しずつ、手早く、作業は進められます。

まず最初は前身頃からです。原型を仰向け状態で寝かせ、石膏を流し込みます。
 


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二層目石膏の注入

石膏は二層に分けて流し込まれます。
一層目は石膏のみですが、二層目の石膏には「ツタ」と呼ばれる植物性繊維を混入します。この繊維が鉄筋コンクリートの筋の役割を果たすことになるのですが、これを混ぜることで、固いけど脆い石膏が、丈夫で粘りけのある強固な外壁となります。

ツタの混入した二層目の石膏は、一層目の石膏が固まる前に流し込まなければなりません。そうすることで、一層目と二層目に境界ができなくなるからです。
 


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木枠の取り付け

二層目の石膏が固まる前に、木枠を取り付けます。
この木枠にどのような役割があるのか、それはこの後、雌型完成のムービーと、さらに次回予定している張り子工程をご覧になればわかると思います。

木枠はツタ入りの強力石膏のみで固定されます。雌型はかなりの重量(恐らく20Kgくらい)になると思いますが、この石膏で固めるだけで、耐久性は十分に確保できるそうです。

木枠を取り付けたら、後は固まるのをじっと待ちます。石膏は水との化学反応で硬化しますが、そのときに約50度くらいの熱と、何だか解らないガスを発生します。有害ではなさそうですが・・・。

 



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後身頃の準備

前身頃の石膏が固まったら、次は後身頃です。興味深いのは、前身頃全体で一個の型となるのに対し、後身頃は、左右二分割にされる点です。これには理由があります。

人体の構造は、胸幅に対して背幅が広くなっているのが普通です。言い換えると、背中より前が狭いわけですが、型を原型から抜き取る際、後身頃を一型で作った場合、背中が広がっているため、抜き取ることが困難になります。そこで背中心を境に左右に二分割し、型を容易に抜き取れるようにするわけです。後に雌型と原型を簡単に剥離できるよう、石けん状の離型剤を塗って準備完了です。
 


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後身頃の石膏注入

まずは左側に一層目の石膏を流し込みます。石膏が必要以上に流れ落ちないよう、左サイドを斜めに持ち上げています。
続いて二層目のツタ入り石膏を流し込み、左身頃を終わらせます。

左側がある程度固まったら、右側を持ち上げ、最後の4分の1に石膏を流します。手際よく二層目を塗り込み、完全に固まるまでに木枠を設置します。前側と同じように石膏のみで木枠を固定します。二層の石膏が分厚く塗られ、まるで発掘されたミイラのようになりました。かなりグロです。
 


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クライマックス

いよいよその瞬間がやってきます。原型師が最も緊張する瞬間でもあります。何か事故があれば、全てが水泡に帰すわけですから・・・。

脇線にクサビを打ち込みます。
身切り線に沿ってヒビが走ります。
反対側の脇線にクサビを打ち込みます。
いよいよその瞬間です。
型が割れ・・・前身頃が剥ぎ取られます。
やった! 成功だ! 雌型の完成だ!

呼吸もできないほど厚く盛られた石膏の鎧を、やっと脱ぎ捨てたような解放の瞬間です。それまで発掘されたミイラのようにグロテスクだっただけに、分割された雌型はあまりにも美しい。まさに感動の瞬間です。
 


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離型防水処理---完成

磨き上げられた大理石のように美しい雌型の表面にも、よく見ると、ピンホールのような穴があったり、微細な傷があったりします。微修正を施し、最後の仕上げとしてペンキを塗ります。ペンキは離型性と防水性を確保するために塗りますが、なぜ色がブルーなのか、これについては聞くのを忘れました。
 


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Copyright Koichi Tamaki