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設計基準



設計基準とは、ブランドが想定する各サイズの体型体格です。
パターンメーキングの初期段階に於いて、僕たちはある体型を想定してパターン作りに臨むわけですが、同時にその大きさも考慮したうえでパターンメーキングが行われます。体型はプロポーションと言っていいかも知れませんが、ようは人間の姿形を表す概念で、数値や言葉で表現するのはとても難しい概念です。一方体格とは大きさの概念です。大きさとは寸法です。身長が何センチ、バストが何センチというように、数値で表される具体的な大きさと考えて間違いありません。
さてブランドが服を企画するとき、その服がどのような服であるかを、関係スタッフの共通了解として定める必要があります。言わばブランドのアイデンティティーですが、どのようなという言葉の中身には、服のデザインや傾向、市場でのターゲットなど、細部に至る要素が含まれています。そしてそれを具体的な服として完成させるためには、誰が見ても解る体型と体格が必要になるわけですが、それが設計基準です。

うちのブランドの設計基準は「エビちゃん」ですと言った場合、エビちゃんのプロポーションが体型の、エビちゃんの各部位の寸法が体格の設計基準となるわけです。したがってパターンはエビちゃんの体型に基づき、エビちゃんの寸法で作られます。これは具体的でとても解りやすい方法だと思いますが、案外この設計基準をおろそかにしているブランドも多いようです。例えば設計基準のないブランドでは以下のような事態が起こります。
サンプルフィッティングの際、周囲にいるいろいろな人にそれを着用してもらい、それぞれの人に対して修正を行ったりします。Aさんに着せて肩幅が広いとか、Bさんに着せて着丈が長いとか、Cさんに着せて身幅が大きいというように、着る人ごとにサンプルの完成度を見直してしまう事態です。そんなバカな話はと思うかも知れませんが、服作りの素人で組織されたブランドではよくある話です。いや、決して素人衆団ではないと思われるブランドでさえ日常的に起こっている事態なのです。
もちろん多くの有名ブランドでは設計基準を設けてあります。またマスター用の基準としてボディーも使っています。しかし仮に設計基準やボディーはあったとしても、フィッティングモデルを使っているところはかなり少ないでしょう。そういうブランドでは上がったサンプルをMDやデザイナーなどが交代に着用し、しばしば上記のような事態を引き起こしています。こんなときパタンナーはどうすれば対処できるのでしょう。いったい誰に合わせて服を作ればいいのでしょうか。

以下の表は私が担当しているTHE NORTH FACEの設計基準です。しかしご覧いただけばお解りのとおり、この表は単なる寸法表で、体型を表すものではありません。各サイズを着用するべき人体の大きさのみを、寸法表として表しているに過ぎません。ようはサイズテーブルと呼ばれるもので、顧客の適用範囲を示すために、店頭やカタログなどでよく見かけるものです。

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グレーの網掛け部分がマスターサイズですが、設計基準となる寸法はあくまでも基本的部位のみで、細部にわたって決めるべきではありません。なぜならこうした決め事は、デザインや設計から自由さを奪うものであり、後に自分の首を絞める原因と成り得るからです。多くは身長、バスト、ウエスト、ヒップのみが普通で、THE NORTH FACEではおまけとして股下が加わっています。
表の見方は単純です。たとえばLサイズを見ると、THE NORTH FACEのLサイズは身長175cm、バスト94cm、ウエスト82cm、ヒップ98cm、股下78cmの人を想定して作られていますという意味になります。各サイズも同じ意味で、原則として想定人物のヌード寸を表しています。

上記したとおりこれは単なる適用範囲ですから、大きさは分かるものの、そのプロポーションがどんなものなのかまでは語っていません。エビちゃん体型で作られているのか柳原体型で作られているのか、それは袖を通してみない限り解らないのです。THE NORTH FACEではブランド規模も大きいため、体格同様、体型も標準的なプロポーションを基準と考えていますが、標準というのが実は曲者で、それはあくまでも統計的に出てくる計算上の答えであって、実在するかどうかは別問題です。我々THE NORTH FACEの商品企画では専任のフィッティングモデルを置き、彼(彼女)に合わせた服作りをしているのですが、モデルの体型が変化したり、時として辞めてしまったりと、この問題には常に頭を悩ませています。しかし基準となるモデルがいなくては、上記した問題が持ち上がり、安定的な物作りは望めません。

ヨーロッパやアメリカの有名ブランドなどでは、相当の経費を割いてフィッティングモデルを雇っていますし、またあるニューヨークのブランドでは、そのフィッティングモデルに合わせたボディー特注し、それを使ったドレーピングが行われています。歴史や洋服観の違いがあるとは言え、日本はそういった意味でかなり遅れた服作りをしています。既製服は誰か特定の客に合わせて作るものではありませんが、少なくともブランド内部での共通了解としての基準が無ければ、デザイナーもパタンナーも、どっちを向いてどんな服を作ればいいのか解らなくなるばかりです。
 

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上記したTHE NORTH FACE設計基準のように、大きさだけを表現したサイズテーブルなら誰でも簡単に作ることが可能です。THE NORTH FACEでは人間生活工学研究センター(HQL)から購入したデータを元にこれを作っていますが、JISやJASPOといった業界規格も、ほとんどがHQLが採集したデータに基づいて作られています。
繰り返しになりますが、この体格的設計基準はあくまでも数値でその大きさを表すだけで、体型を表すことはできません。我々パタンナーがパターンメーキングに際し最も重要なのは数値よりも形ですから、大切なのはモデルの体型であり、僕に言わせれば数値的設計基準などはどうでもいいことなのです。とはいうものの、この数値的設計基準は、グレーディングに於いて力を発揮します。
パターンメーキングが人間の曖昧な感性によって行われる創造的な作業であるのに対し、グレーディングは事務的で数学的な非創造的作業です。非創造的と言ってしまうと身も蓋もないかも知れませんが、グレーディングは理論と数値に基づいて合理的に処理されるべき作業だと僕は思っていますので、この数値的設計基準は重要な役割を果たすことになります。もう一度THE NORTH FACEの設計基準を見てみましょう。

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この表には各サイズの間に「ピッチ」が設けてあります。ピッチとはもちろんグレーディングピッチのことですが、ここからしばらくはグレーディングについての話になりますのでご了承ください。

数値的設計基準は、パターンメーキングでは大した役割を果たしませんが、グレーディングを考える上では不可欠な条件です。 この設計基準無しにグレーディングをプランすることは不可能です。なぜなら、グレーディングで最も重要なピッチが、この設計基準に示されているからです。

一般的にグレーディングピッチとは、各サイズ間の服の大きさの変化量を指しているようですが、それは大きな勘違いです。グレーディングピッチとは服のサイズ間に生じる寸法差ではなく、設計基準の体格間に生じる寸法差です。
例えば3cmピッチでグレーディングされているといった場合、一般的には仕上がった各サイズの服が、それぞれ3cmの間隔になっていると考えられていますが、本来のピッチとはそうではなく、設計基準としてブランドが定めた、各サイズ間の体格差を表しているのです。もっと解りやすく言うと、洋服がピッチを持つのではなく、基準にピッチが設けられているということです。

上の表がそれを表していますが、THE NORTH FACEの基本的ピッチは、身長が5cm、バスト、ウエスト、ヒップが4cm、股下が3cmと決めてあります。これは設計基準と想定している人間の体格をそう定義しているのであって、決して洋服そのものがこの数値で変化するものではありません。
例えば身長を見てみましょう。XSを160cmと定め、それ以上のサイズ間に5cmのピッチを持たせています。つまり各サイズの身長は5cm刻みで大きくなっているということです。ならばパターンも5cm刻みになっているのかというとそうではありません。XSとSの差寸が5cmということは、S(身長165cm)はXS(身長160cm)に対して103.125%大きいということになります。着丈や裄丈など、身長は主にパターンの縦方向の変化を決める指針になりますが、仮に該当するXSサイズの服の着丈が60cmだとしたら、Sの着丈はそれより103.125%大きく変化するということになります。60cmに対する103.125%は61.875cmとなりますので、Sの着丈は61.9cm、ピッチは約1.9cmということになるわけです。
次にバストを見てみましょう。設計基準に記されているマスターサイズLのバストは94cmです。これに対し、前後各サイズ間ピッチは4cmと決められています。4cmは94cmの約4.26%となり、センチ単位に換算すると約4cmとなりますが、これがバストのピッチとなるわけで、決してパターンの変化量となるのではありません。仮に該当するマスターの仕上がりバスト寸が130cmあったとしたら、ここで変化する量はその4.26%、約5.2cmとなるわけです。XLは約135.2cmになり、Mは124.8cmに仕上がらなければなりません。表現する単位がセンチであれパーセントであれ、それはあくまでも設計基準の人体が変化する量であって、パターンそのものが変化する量ではないことを認識していただかなければなりません。

設計基準は少々厄介な話になってしまいましたが、パターンメーキングの、特にグレーディングに於いて重要なファクターになるのだという点はご理解いただけたでしょうか。
 

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Copyright Koichi Tamaki