ネック周りはTOPSの最も重要な部位のひとつであり、服の落ち着き、着やすさなどを左右することは言うまでもありません。僕は更に、ネック周りはTOPSの顔であるとも思っています。ここがカッコ悪いとカッコ悪い服にしかならないし、他が多少ダメであっても、ネック周りのすっきりした服はカッコ良く見えるものだと思います。つまり服の説得力の問題ですが、試着した客の印象を左右する重要な部位ということです。

ここでは一般的な常識として「ネックは伸ばさない」という論理の信憑性を探ってみましょう。どうしてネックを伸ばしてはいけなくなったのか、その話は別のページに譲るとして、 ネックは伸びなければならないという物理的根拠が実はあるのです。ネック周りのメカニズムについて解説します。

1. 身頃面とクビ面

写真1Aは左肩先からネックを見ていますが、身頃とクビの成す角度が、後中心線上が大きな鈍角となるのに対し、前中心線上は鋭角になっていることがわかります。
これに対し写真1Bは正面から見た写真です。SNP(サイドネックポイント)あたりの角度を見ると、クビはほぼ垂直に、肩傾斜線からはやや鈍角に上方に立ち上がっています。
これらの状況から身頃に対するクビの付き方は、クビ後側の面は身頃の面に対してほぼ同一面にあるのに対し、サイドから徐々に身頃面とクビ面の成す角度が大きくなり、前中心で最大になると理解できます。これはクビの構造の基本であり今更僕から言われるまでのことではないでしょう。しかし同時に、意外に理解されていないのがこの部分でもあるのです。

2. ノボリ

次の写真はボディーにシーチングを着せ付けたものですが、ネック周りを拡大して見せています。
身頃をボディーにフィットさせるためには、写真のように衿グリに切り込みを入れ、衿グリを広げなければなりません。これは何を意味しているのでしょうか。

上の写真を見れば解るとおり、身頃面とクビ面は一定の角度がついて変化していますが、じつは角(カド)となる直線的な変化ではなく、丸みを持った曲線として変化しているということなのです。この曲線的変化を俗に「ノボリ」と言いますが、このノボリを表現できるか否かによって、TOPSのフィット感、安定性、着心地というものが左右されます。

3. 伸ばし

写真の1A、1Bは衿グリを赤線で表しています。
もしAの位置に衿グリを作るとしたら、この衿グリは、切り込みが広がった生地の無い部分をとおることになります。この衿グリをボディーから外して平面に置いた場合、広がっていた切り込みは元の状態に戻るわけですから、実際に着せ付けた場合より距離が短くなってしまいますね。
仮に平面に置いたこの衿グリの距離が17cmだとした場合、実際人に着せると切り込みの広がった分がプラスされるわけですから、これは衿グリをその分だけ引っ張って対応しなければ他に方法がありません。つまり衿グリを伸ばすということです。仮にその伸ばし量が1cmだったとすると、身頃のパターンは衿グリ17cmなのに対し、衿のパターンは18cmとしなければなりません。そのようなパターンをみなさんは想像できますか。衿グリは伸ばさないというのが常識でしたが、常識どおりにやったのではフィットしたTOPSは作れないことになります。

次にBの衿グリ線を見てみましょう。
これは切り込みの外側を通っています。つまり身頃の衿グリは伸ばす必要のない部分を通っているということですから、衿のパターンは身頃と同寸になります。しかしBはAよりも外側を通っているわけですから、距離が大きくなるのは当たり前の話ですね。衿グリは必然的に大きくならざるを得ないということです。

まとめてみましょう。
クビにフィットした衿を作り、なおかつ身頃をネック周辺で安定させるためには、身頃の衿グリは伸ばさなければなりません。また衿グリと衿付け距離を同寸で設計したい場合は、衿グリを大きくしなければなりません。

人のノボリに対してしっかりフィットして安定感のある服を「座りがいい」と表現します。
これに対して既製服でよく見かけるのは、ネック周りが身体から浮き上がり肩先でTOPS全体を支えているという服です。別にそれが悪いというのではなく、 小さな衿グリにもかかわらず衿を同寸で設計すると、得てしてこういう服ができあがるということです。もちろん着にくくて肩が懲ります。しかしこれはネック周辺の物理的メカニズムであり、あえてやるのと知らずにやるのとでは説得力に大きな差が出ます。場合によっては衿グリを伸ばす必要があるということを理解していただきたいと思います。