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理想のダミーを求めて 2
2011/12/15


30数年前、パリの街角で出会った KENNETT & LINDSELL のダミーは、当時の僕にとって理想のカタチをしていました。それまで見慣れていた国産ダミーとは比較にならないほどカッコイイ体型をしていると感じました。どこかのページで書きましたが、オバマ大統領と管総理ほどの違いがありました。そうか、こいつらこのダミーを使って服作りをやっているんだ。だからあんなにカッコイイ服になるんだ。カッコイイ服は、カッコイイ体型のダミーがあって始めてできるんだと、思いました。

いつ頃からそういう考えを持つようになったか定かではありませんが、あれほど惚れていたK+Lのダミーを、いつしか僕は「ひいき目に見ても70点の満足度しかない」と思うようになっていました。使い続けるうちに、K+Lの特徴が自分が求める理想と違うことがわかってきたからです。というより、その特徴を欠点とさえ思うようになったのです。僕が不満を抱くその特徴とはいったいどんなものなのか。それは、背中のカタチでした。

僕は「後姿」というページの中で、後姿の美しい服がカッコイイ服だと言いました。そしてそのカッコ良さは、背筋を凛と伸ばした美しい姿勢によってもたらされるとも言いました。僕はまさにこのようなダミーを求めているのです。正しく美しい姿勢でビシッと起立した、見とれてしまうほど魅力的な背中を持ったダミーです。
 

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1.背筋

下の写真を見てください。僕が長年使っているK+Lの側面図です。
図中の黒い線がオリジナルのシルエットですが、僕にはこの背中のラインが不満足でした。

前側の胸からお腹にかけてはしっかり開いて良い姿勢を保っているように思えますが、それに対して背中のこのラインは不自然なほど猫背になっています。みなさんはどう思われますか。首の付き方も不自然に前傾しています。思わず背筋を伸ばせと怒鳴りたくなりませんか。

白線は僕が理想と思うラインです。これが凛と背筋を伸ばした正しい姿勢です。自然で美しい姿勢です。前後のバランスも良く、首位置も後に大きくずれました。したがって背丈と前丈のバランスも適正になるはずです。そしてこの姿勢こそが、カッコイイ姿勢だと、僕は思うのです。こんなダミーで服を作れば、それは間違いなくカッコ良くなるに違いありません。
 

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WEBレクチャー「肩胛骨のメカニズム」で、僕はK+Lの肩胛骨は凹凸が少なく滑らかだと言いましたが、それはあくまでも肩胛骨の話です。不自然な猫背のような姿勢というのは、肩胛骨ではなく背中心です。人体で言えば脊柱の問題ですので混同しないでください。

KENNETT & LINDSELL が日本製のダミーと大きく違うのは前肩では無いという点です。
これはカッコイイTOPSを作る上で大きなアドバンテージになりますが、やはり猫背はいただけません。カッコイイ服を作るために、背筋はどうしてもビシッと伸びていなければならないのです。しかし洋の東西を問わず、なぜか世の中のダミーはどれも猫背に作られています。人の体型がそうなっているわけではないし、僕にはどうしてもその理由が見いだせません。
 

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2.猫背のダミー

下はみなさんが普段から使っている女性用のダミーですが、猫背のダミーはメンズだけではありませんでした。不思議なことに、僕が検証したほとんど全ての女性用ダミーも猫背なのです。首が前傾して前に付いています。
KLも9ARもAMICOも、なんだかババくさくて見ていられません。若い世代の数値から作られたBUNKAボディーでさえこの背筋です。こんなダミーでカッコイイ服が作れるとは僕には到底思えないのですが、だからみなさんは立体ではなく平面をやるのでしょうか。だとしたら、それは無理もない話ですね。
 

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K+Lのダミーが日本の各ブランドに普及し始めた頃、それはもう20年も前の話ですが、多くの方がこのダミーは日本人の体型に合うのかと疑問を持ちました。僕には日本人の体型というものがどういうカタチなのか解りませんが、多くのブランドがこれを使っているところを見ると、きっと日本人の体型に合っているのかも知れません。しかし僕はそれ以上に、K+Lで作った服がこれまでと比べてカッコ良かったからだろうと思っています。

カッコ悪い体型に合わせて作った服とカッコイイ体型に合わせて作った服と、どちらがカッコイイ服になると思いますか。
僕は若い頃テーラーの叔父の元で修行をしてましたが、その時にとても重要な、ひとつの原則に気がつきました。それは、カッコ悪い体型に合わせて作った服はカッコ悪いという原則です。叔父の店に来る客を見て、僕は正直にそう思いました。洋服は、カッコイイ体型に合わせて作らなければ、決してカッコ良くならないのです。洋服経験が浅い昔の人は、自分の体型に合わせて作った服が一番良いと考えていました。確かに動きやすくて高級かも知れません。でもあなたの体型に合わせているんですよ。自分の姿を鏡に映してみて、カッコイイと思いますか。僕は自分の体型に合わせて作った自分のスーツを着て、確かにそのとおりだと思いました。

その頃すでに注文服の時代は終わろうとしていました。既製服時代の到来です。しかし初期の既製服は注文服の流れを組んでいたため、カッコ良さより顧客の体型を優先した服作りをしていました。なぜか色もグレーばかりでした。60年代から70年代、時代は高度成長期の真っ盛りです。JUNとVANに育てられ、カウンターカルチャーに傾倒した若者達はそんな既製服を見て「ドブネズミルック」と蔑みました。若者は誰もが新しいファッションに飢えていました。カンサイ、イッセイ、ケンゾーなど、これまでの鬱憤を晴らすかのように、次々と新鋭デザイナーがデビューし、新しいブランドを興し、斬新で魅力的なコレクションを発表しました。いわゆるデザイナーズブランドの幕開けです。このムーブメントは、日本ファッションに於ける歴史的なな盛り上がりを見せました。そしてどのデザイナーが作る服も、これまでの服作りの概念、方法論を覆すものばかりでした。日本人の体型に合わせた服作りをしようなどと考えるデザイナーは一人もいませんでした。カッコ悪い体型に合わせることのナンセンスを、誰もが感じていたからです。

2011年 ━━━━━ 日本のファッションは低迷を続けています。少子高齢化。デフレスパイラル。財政破綻。あの頃の景気のいい話はどこへ消えたのでしょうか。僕が THE NORTH FACE ブランドを手がけて20年になりますが、なぜかこのブランドだけは元気いっぱいです。洋服の根拠がはっきりしているからだという人もあります。アウトドア、健康、スポーツブームの波に乗っているからだという人もあります。しかし僕はそうは思っていません。人の心に宿るカッコ良さのイメージが、時代と共に変化したのだと思います。しかしそれはファッションの宿命です。ファッションは何時の時代も、水のように移ろいながら流れていきます。同じものにしがみついていてはダメなんです。時代と共に、変わっていかなければダメなんです。
 

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