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テーラード衿の作り方



メンズでもレディースでも、僕は自分以外に、テーラードをドレーピングでやるパタンナーを知りません。誰もが平面でやっています。彼らを見ると、僕の方法はかなり特殊なんだなあと思いますが、まあそんなことはカラスの勝手ですから、みなさん好きなようにやればいいのです。しかし特殊であるということを、難しいと考えるのは偏見です。パンツのドレーピングもそうですが、僕がやっている方法は極めて簡単なんです。むしろあまりにも簡単すぎて、信憑性に欠けるかも知れません。でもこれで何十年もやってこれたのですから、特殊な人の特殊な方法だと嫌わず、やってみるのも損はないと思います。特に衿は簡単です。クリースラインの求め方、ネカシ量、衿腰の高さの求め方など、平面製図の根拠のない数値や配分法に悩むより、ドレーピングのほうがよっぽど確実で手っ取り早いことを知るべきです。

ここでご紹介する衿作りは、パンツ同様、アイロン技術を一切使わないことを前提としてます。つまり「クセ取り」をしない衿です。若い方はすでにご存じないかと思いますが、いわゆる「本物」と呼ばれる昔の衿は、外回りにきっちり地の目を通して作りました。下の写真は三十数年前、僕が叔父に教わりながら作ったジャケットの衿です。ご覧いただけばわかるとおり、これだけ大きなカーブに地の目が通っています。いかに大きな力と熱で生地を変形させているかがわかります。地の目が通っているということは、パターンは単なる長方形だということです。それをアイロン技術であのようなカーブに作り上げるわけですから、相当の労力と時間と熟練が必要です。
 

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今となっては、このような技術を既製服に求めることはできません。コストがかかりすぎるからです。また既製服のパタンナーとして食べている僕は、こうしたアイロン技術に頼ってはいけないと考えています。パンツでもご紹介したとおり、パターンテクニックのみで、どこまでテーラーのアイロン技術に迫れるか。アイロン技術無しに、どこまでシルエットを追求できるのか。それがパタンナーとして常に抱いている課題です。

テーラードの衿をドレーピングで作るというのは、かなり特殊で無謀な方法に思えるかも知れませんが、やってみればわかるとおり、ヘタなアイロンよりは確実です。かなり綺麗な衿が作れるはずです。アイロン操作をしないため、もちろん上の写真のようなハギ無し一枚衿は作れません。衿腰を接いだ二枚衿です。この接ぎでクセをとるわけですが、特にレディースのみなさんにとっては、実用に耐える有用な方法だと考えています。
 

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1. 衿腰を用意する

不織布を左図のような大きさで用意します。
衿腰の高さは3.5cmとしていますが、これはデザインですから、好きな高さで設定して構いません。要は後中心から見たときの、上衿の、見た目の高さマイナス重なり分(図を参照)です。

長さとは、後中心から第一ボタンまでのクリースラインの長さです。したがってこれもデザインによって変化しなければなりませんが、今回は三つボタンの上掛けという設定で、約50センチほど(長めにする)で用意します。
 

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2. クリースラインを作る

ムービーで示すとおり、長方形の長辺がクリースラインとなります。
第一釦の返り位置から後中心まで、衿腰がねじれたり曲がったりしないよう注意しながらフィットさせます。このとき中間にピンを打ってはいけません。 第一釦で止めたら、あとは後中心を止めるのみとしてください。中間を止めると、衿腰がねじれたり曲がったりします。

ポイントはゴージ付近のフィット性を高めることです。首の付け根周辺ですが、ここが身頃から離れてはダメです。ぴったりボディーに沿うように付けていきます。

ムービーの中に指で示しているシーンがありますが、これがクリースラインです。クリースラインは、ここを軸として見返し(ラペル)が返ってくるわけですから、あくまでも直線でなければなりません。

綺麗に収まったら中間にピンを打ち、衿腰が動かないようにします。クリースラインに沿ってラペルを返します。ここまでの作業で、衿作りに於ける全行程の大部分が終了しますが、とても重要でデリケートな行程なので、慎重かつ大胆に、そして納得いかない場合は何度でもやり直しましょう。
 


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3. ゴージをデザインする

返したラペルに外回りのデザインを描き込みます。
さらにキザミ、ゴージを描き込みますが、重要なのはゴージラインです。なぜなら、ゴージの延長線上に衿腰カーブが連なってくるからです。後でゴージを変更するようなことがあれば、もちろんそれに伴って上衿付けのカーブ(直線の場合もある)も変化します。

ゴージラインはシーチングの裏まで写るよう、マジックでしっかり描き込みます。ラペルを元に戻し、ゴージの延長線から衿グリカーブを描きます。ほとんどの場合、SNP(サイドネックポイント )から後衿ミツ部は、直線のままで構いません。もちろん、カーブの連絡が悪いようなら直線にこだわる必要はありません。美しいラインを作ることが優先されます。後身頃の衿グリと、衿腰の衿付け線ができました。
 



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4. ドレーピングの完了

これでドレーピングが完了です。
身頃から不織布を取り外し、衿腰を挟みでカットします。ここで狂うと全てが台無しになります。マジックによるマーキングが正確であること。そして描いたラインどおり正確にカットすることが必要です。
 


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5. 前身の衿グリを作る

カットした衿腰を再び身頃に取り付けます。
このとき身頃の衿グリに入れた切り込みに注意してください。切り込みが開いていたら、それは衿グリが伸びているということです。通常は衿グリを伸ばすことはありませんが、あえて小さめの衿グリを作り、その分衿グリを伸ばして「ノボリ」を付けたりもします。しかしこれは高等テクニックでもあり、縫製工場がこうした意図を理解しないことが多いため、なかなかできないのが現実です。

SNP、BC、そしてクリースラインの位置を描き込み終了です 。衿と衿グリが同時に完成します。
ムービーを見ればおわかりだと思いますが、ここまでは身頃も同時にドレーピングしているというところがミソです。これが僕のパターンメーキングの特徴でもあるわけですが、TOPSの場合、たいていは身頃と衿グリを同時にドレーピングします。したがってこの後身頃もバラし、衿とともにスキャンしてイラレでトレースします。
 


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6. 平面作業

下図はイラレでトレースした身頃と衿です。
平面製図でAは「ネックの離れ量」などと呼んだりしているようですが、要はクリースラインの角度を決定する、衿を設計する上で最も重要な要素です。前身SNPからの距離で表しますが、水平であったり肩線の延長であったり、それは教える先生によって様々なようです。いずれもその量は2~2.5cm、または衿腰の高さマイナス0.3~0.5cmなどと教えています。しかし何故その数値なのか。その根拠や必然性について語られることはありません。

衿腰の高さはデザインです。2cmの場合もあれば5cmの場合もあるわけです。さらに衿グリの大きさや身頃への沿い具合など、作りたい形状、シルエットによって様々に変化します。しかもクリースラインの角度が上衿のネカシを決定するわけですから、クリースラインと上衿の返り線とは二つでひとつの関係であり、これを定量的に何センチと決めることからしてナンセンスであると僕は思っています。

下図を見ればわかるとおり、ドレーピングは的確な答えを与えます。これは理屈や数値ではなく、なるべくしてなった必然的な結果だということを認識してください。

キザミと外回りのカーブを描きますが、これもデザイン線である以上、好きなように描くことができます。一見すると単純な棒衿に見えますが、ここには平面では得られない重要なメカニズムが含まれています。
 

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7. 半身で確認する

ドレーピングのトレースが終わり、確認用として最初に組むトワルは両身です。しかし衿はまだこの先の行程が残っているため、不織布を使って半身で組みます。

衿はミシンできっちり取り付けます。クリースラインと上衿返り線との連絡は問題ありません。ドレーピングがうまくいけば、ここは綺麗に収まるはずです。クリースラインはOKですが、後中心が引っ張られて浮いているのがわかります。当然ですね。上図で見たとおり、ドレーピングで作った衿は棒衿です。このままでは外回りの距離が足りなくなるのは当然です。ではどの程度外回りを出すのか。それがここからの作業です。

後中心が重なるように衿を引っ張って、動かないようピンで止めます。これから衿の外回りを切り開き、不足分がどれくらいなのか。またそれはどの部分なのかを検証します。
 


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8. マニュプレーション

どの部分がどの程度不足しているのか。それはトワルをよく見ればわかります。無理なシワが出てるところが不足している箇所です。もっとも上衿の場合、頭で考えてもわかりますね。SNPから後は、生地の厚みと衿グリの重なり分が不足しています。またそれより前は、衿の外回りが身頃につっかえているわけですから、更にその分が大きく不足するはずです。ムービーの赤丸で示している部分がそうですが、ここが一番不足する箇所です。後ろへ行くほど不足分は小さくなり、後中心でゼロになります。

前側からハサミをいれていきます。これは、無理がかかっていると思われる場所に、的確に入れなければなりません。SNPまでに合計3本カットしました。 さらにSNPより後をチェックし、不足分に応じてカットします。
 


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9. 不足分量の確認

切り開いた衿をピンで止めます。これもドレーピングですから、いい加減にするのではなく、衿が美しく収まるよう適切に止めなければなりません。

メジャーで切り開き量を正確に計り、忘れないようトワルに記入します。
ここで求めたいのは切り開く量です。それを知る手だても、立体でやる意外にありません。本ちゃんの生地を使えばもっと正確にできるでしょうが、いずれも平面では求められない数値です。しかしいったん数値が出てしまえば、あとは平面でやったほうが正確です。ここから先はふたたび平面作業に戻ります。
 


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10. 平面による衿の展開

平面作業の手順を図解しました。
まずは上衿を切り換えるための線を引きます。アイロンのワザを使わないパターンメーキングですから、上衿を一枚で仕上げるのは不可能です。見えない部分に切替を作り、切り換えることでクセを取るわけです。切替の位置はなるべく返り線に近い方がいいのですが、ここでは返り線より1cmとしました。

2は衿腰と上衿に分割した状態です。
トワルでハサミを入れたのと同じ位置に、切り返線を引きます。

トワルに印をしたとおりに切り開きます。
ただしここでは生地の厚みや後中心での重なり分を加味しています。左図の数値はトワルに記入したものですが、実際の開き量はこれより多くしています。どのくらい多いのかは、使う生地や重なり分量によって違うので一概に言えませんが、3から5割増しくらいで一度見てみればいいでしょう。ここでは重なり分として3ミリ後中心を伸ばしました。その分開き量も多くなっています。
 

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11. 完成

上記の衿を組んで取り付けました。
確認用なので、必ず両身で組みます。またこのときは不織布ではなく、芯を貼ったシーチングで組みます。その方が返りの具合がいいからですが、外回りの不足分量など、欠点は出にくくなるので、厳しい目でチェックする必要があります。

最初のトワルよりキザミを狭く修正しているため、キザミの奥が縫われていません。ちょっと浮いて、しかも開こうとしているのがお解りかと思います。外回り分量がまだ少し不足しているみたいです。しかしここまで来ればもうトワルを組む必要はないでしょう。微修正をしてサンプルパターンを作ればOKです。

身頃のドレーピングからここまでの所要時間は約1時間です。平面で悩むより、早くて簡単で正確だとは思いませんか。是非みなさんもトライしてください。
 


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Copyright Koichi Tamaki