11. 平面操作  トレース

完成したトワルをスキャンし、イラレでトレースします。下はトレースが終わった状態を写していますが、要領はいつものとおりです。立体で得られた線を、そのまま素直にトレースしてください。自分勝手に変更してしまっては、何のためのドレーピングか意味がわからなくなります。もちろん後から行う微調整は別にして、原則はトワルに忠実であることです。もしも明らかに不自然な線やポイントがあった場合、諦めて最初からやり直すのが賢明です。というより、やり直す以外に、他に方法はありません。



12. 平面操作  ダーツ

着丈、肩幅、衿グリ、アームホール、接ぎ目の距離合わせ等、トレースしたパターンの整合性を取ります。左のムービーは、ダーツの整合性を取るための修正作業です。ポイントは以下のとおりとなります。

1.止まりから止まりまで直線Aを引く(これが基準線)
2.直角線Bを用意し、どちらか一方のウエストのアンカーポイントにグリッドさせる
3.線Bのもう一方のアンカーポイントを、もう一方のウエストのアンカーポイントにグリッドさせる
4.線分Bの中心にアンカーポイントを作り、直線Aとの交点に移動する
5.線分Bの両端にあるアンカーポイントに、ウエストのアンカーポイントをグリッドさせる



13. 平面操作  肩周り

肩幅、衿グリ、アームホール形状などの整合性を取ります。肩幅は34cmとちょっと小さめですが、それが狙いでもあります。また再三申し上げているとおり、最後にはパターンを数パーセント拡大することになるため、肩幅を含めた全ての部位が、その分大きくなるということを前提に作業しなければなりません。



14. 平面操作  3パネ作り

脇ダーツの位置や角度は、多少なら変更しても構いません。上記したダーツ操作で、整合性を持たせた案内線を頼りに、案内線から逸脱しない範囲で、分割線を描きます。イラレの場合は「パスファインダ」の「分割」を使いますが、各パーツがクローズドパスであることと、分割線がパターンパーツをはみ出すように作図するのがルールです。



15. 平面操作  AH、脇裾

紙袖のアームホールとトレースしたアームホールとの距離は、ほとんどの場合、合致しません。今回は約2ミリ程度の後差でしたが、もしも1cm以上の後差になていたら、それはドレーピングの正確性に問題があります。できればやり直した方がいいですね。しかしアームホールは、衿と衿グリの関係ほど厳密である必要はないので、ある程度は平面上で操作しても構いません。カマ底周辺のカーブと脇位置、山周辺のカーブなどがドレーピングで得られたものであれば、中間のカーブ形状、カマブカなど、多少の変更は問題ありません。ここではカマ底を2、3ミリ上げて距離を合わせ、なおかつカマ底周辺のカーブを創作しています。

裾線は、切替線の距離を合わせ、各パーツを接ぎ合わせた状態を作り、全体のカーブとして描きます。しかしそれも、最終のトワルで修正される可能性があるため、それほど厳密に合わせる必要はないでしょう。



16. 平面操作  袖

上段の図は、袖にイセ分を加える方法です。ご覧になればわかると思いますが、まずは身頃アームホールを左図のとおりに分割し、青部分と赤部分にイセを入れています。緑部分には入れていません。次に袖山線を102.99%で拡大します。そのうえで、イセ量を加えたノッチを入れます。

下のムービーは袖山ラインを拡大する様子です。相似形による拡大なので、山の高さも増え、袖幅も同じ比率で増します。袖丈及び袖口幅はそのままなので、袖下ラインの角度が変わります。そのままでは、袖山ラインの谷底の連絡が悪くなるため、スムーズなつながりになるよう修正しなければなりません。そのうえで距離を合わせます。

袖はジャケットであるような一般的な2枚袖です。今回は基本どおりやりたいので、山袖と谷袖とのワタリ幅を同じにしました。下段のムービーでは袖を正確に2等分する方法を示しています。仮に山と谷の幅を変える場合でも、最初にまず2等分線を作っておくと作業が楽になります。肘から下で10度ほど振っていますが、角度はもっと少なくてもいいと思います。



17. 平面操作  衿

下のムービーは衿にキセ分を加える方法です。上記のムービーにあったとおり、折り返して不足する分を単純に出せばいいだけのことなのですが、衿腰と羽根衿の接ぎ位置は、第2釦でラペルを返した際に気になる箇所です。もし気に入らなければ、この位置も修正しなければなりません。

もうひとつ問題になるのは距離です。キセ分を加えた衿付け距離は、元の長さに対して、半身で約6ミリ長くなりました。これをどう処理するかが問題なのですが、僕は構わずイセてしまえばいいだろうと思います。というか、他に処理する方法を思いつかないのです。



18. トワル確認

これは完成度を高めるための中間トワルです。シーチングで構わないので、必ず両身で組まなければなりません。左の写真は袖が付いていませんが、片方だけで構いませんので、必ず袖も取り付けてチェックするようにします。

トワルをチェックする場合、最初は衿や袖は付けず、身頃のみを見るようにします。身頃のみの状態で欠点を探り、問題が無ければ、あるいは問題が解決されたら、次に衿を取り付けます。衿を取り付けることで、身頃に何らかの問題点が生じる場合が良くありますが、衿が付くまでその問題は発生しなかったわけですから、問題の原因は身頃ではなく、衿にあるだろうと予測できます。しかし先に衿を付けてしまうと、その問題の因果関係が不明瞭になってしまいます。何が原因なのかを正確に把握するのが難しくなります。この考え方は袖についても同様です。身頃の問題、衿の問題が解決したら、初めて袖を付けます。袖を付けることによって発生する身頃の問題を、正確に把握するとともに、正しい解決方法を検討することができるからです。

衿の返り具合は先にやったとおり、本チャンの素材で見なければなりません。シーチングでは厚みが足りないため、正確な甘さを把握できないでしょう。ひだりはシーチングで組んでありますが、身頃に与える影響を確認するのと、キザミや剣先のデザインを調整するためです。

下段は修正内容を現しています。ボタン間隔が広すぎるように思うため、図のように打ち合い幅と上下間隔を詰めました。ただし第1ボタンの高さは衿やキザミによって決められるため、下のボタン間隔とは合わなくなります。あとはポケット位置など必要情報を描き込み、最終の本チャントワルで最後の微調整をします。



19. 最終トワル

シーチングトワルからの修正を反映させ、最終のトワルを本チャン素材で作りました。上段A~Dは問題点を記してあります。順番に解説しましょう。

A. 前ダキの入りが悪い
B. 袖山が低過ぎる
C. 後衿が甘すぎて浮いている
D. 後ダキの入りが悪い

Cについては解説する必要はありません。先に検証したとおり、後中心あたりが甘すぎます。これは羽根衿をもっと辛く修正すれば解決します。

動きやすさを重視したため、袖山の高さを10cm(基本袖)からスタートしましたが、やはりこうして実際に着用させてみると、もう少し落ち着いた方が見た目がいいですね。実はA、Dのダキ落ちは袖山の高さに原因があります。中段の写真(左)を見てもらえばわかるとおり、セットされた位置はかなり腕が開いています。ここから腕を降ろすと、肩先が引かれてダキに負担がかかります。右の写真は袖山を切り開き、高くした状態を表現していますが、ダキの入り方が大きく変わっているのがわかります。

しかし厳密に言うと、僅かですが斜めの引きジワが出ています。このモデルに合わせた補正が必要かどうかは別問題として、こうした小さな問題点も、その因果関係を追求し、解決しておく必要があります。この場合、原因はアームホールにあります。カマ底が脇下に当たり、服がそれ以上上に持ち上がらなくなっているためです。そこで下段写真のような補正を行います。

袖を取り外し、アームホールの下側に、深さ1cm程度の切り込みを入れています。こうすることで脇下のつっかえが取れ、服が持ち上がります。結果として、前も後もダキがすっきり入ってきましたね。このあたりは着用者の体型によって変わるため、大は小を兼ねるという既製服の原則を重んじ、ここはやはり深めのカマブカ、高めの山にしておいたほうが無難かも知れません。

さて今回はここで終了です。冒頭に記したとおり、ドレーピングで作ったパターンは、着用モデルのバスト寸に合わせるため、最終的に9.4%拡大されました。袖丈のみを修正していますが、その他の部位は、まったく相似形で拡大したままです。着丈も衿グリも肩幅も、すべて均一に拡大されています。当然のことながら、現実的には着丈や袖幅などを補正し、デザインバランスを整えるのことになりますが、ここではあえて相似形でやりました。