今のアパレル業界で Adobe Illustrator と聞いて、えっ、それ何? という人は滅多にいないと思います。それくらい Adobe Illustrator はこの業界に普及したということですが、私がイラレに出会った頃、その名前と存在を知っている人はほとんどいませんでした。

当時、それは1995年頃の話しですが、東レCADの導入価格が1台2千万円もする時代でした。僕が勤務していたBIGIグループは、早くからこのシステムを導入していたため、僕はすでに1985年にはその実態を把握していたのですが、正直、何の役にも立たないただの粗大ゴミでした。

2千万円の粗大ゴミに幻滅していた時代に、たかだか数万円のAdobe Illustratorに出会ったときの、僕の心境と驚きを想像してください。恐らく蜘蛛の糸を見つけたカンダタ以上の喜びがあったことは想像に難くないと思います。飯を食うことすら忘れ、昼夜を問わずその世界に引き込まれてしまいました。1995年の暮れ、僕は自分へのクリスマスプレゼントのつもりで買ったMacとイラレに占領され、気がつくと、それは正月の三が日が明けた頃でした。Macのモニターには、イラレで作ったテーラードジャケットのパターンが映っていました。僕の知らない世界が、想像を絶する進化を遂げていたことに気づかなかった自分に対する嫌悪と同時に、パターンメーキングの世界に、新しい時代が訪れていることを強く感じました。

あれから25年の歳月が流れたいま、僕が感じている正直な気持ちを、お話しします。

Adobe Illustrator の現在の進化については何の感動もありません。というか、むしろ不満しかありません。イラレは僕がその存在を知った25年前に、すでに高度に完成したアプリだったのです。つまりもうそれ以上、進化する伸びしろは無かったのです。しかしソフトメーカーはバージョンアップを続けなければならない運命ですから、しょうもない、必要の無いどうでもいい機能ばかりを搭載し、ユーザーへのアップデートを迫りました。むしろ感動するのは東レの進化です。何年か前に発表されたクレアコンポ2を見た時、僕は25年前に出会ったイラレに匹敵する感動を貰いました。それまでのクレアがあまりにも情けないアプリだっただけに、この進化には目を見張るものがありました。東レACSのスタッフに拍手を送りたいと思っています。しかも機能だけでは無く、価格も大幅に安くなりました。東レがここまで進化した以上、あえてイラレをパターンメーキングのツールとして使う意味があるのか、という疑問さえ持つほどです。

確かにパターンメーキングだけを考えるならば、東レだけで十分なのかも知れません。しかし実はまだまだ、パターンメーキング以外の多くの面で、イラレには圧倒的なアドバンテージがあるのです。それは、これが本来のイラレの目的ですから当然のことなのですが、グラフィックワーク・ツールとしての機能です。えっ、グラフィックワーク・ツールっていったい何って思いますよね。ひらったく言えば、平面作業を支援するツールということになるかと思いますが、グラフィック・ツールとは、実は僕たちの周りにいくらでも存在する、紙と鉛筆のことなんです。

みなさんの机の上にころがっている紙と鉛筆を思い起こしてください。紙と鉛筆は、幼稚園の子供からから学者までもが使う、世界で最も優れたツールだと思いませんか。紙と鉛筆で、人間はモナリザからE=MC2という公式まであみ出しました。単純なお絵かきから物理方程式まで、人間の考える全ての価値観やイメージを表現する手段として、紙と鉛筆というツールは、人類の生活に多大な影響と貢献をもたらしました。僕は紙と鉛筆は、人類が開発した最高最強のツールだと思っていますが、その偉大なツールを、デジタル時代の道具として再現したものが Adobe Illustrator なのです。もちろんその機能は現実の紙と鉛筆とは比較にならないほどの機能です。破れない紙、芯の折れない鉛筆、カスの出ない消しゴム、自由に曲がるカーブ尺、手の汚れない絵の具などなど、機能的には本来の紙と鉛筆を踏襲しながら、その不便さをすべて解決した見事なツールです。これを習得することで、みなさんの人生は限りなく広がります。なぜならイラレは、紙と鉛筆だからです。あなた自身を表現するための、全ての機能を備えているからです。

デザイン画やMAP、縫製仕様書やパーツリストなど、アパレル業務のほぼ全てのフローは紙と鉛筆で伝えなければならない作業ばかりです。いやアパレル業界だけではありません。ほぼ全ての社会コミュニケーションは紙と鉛筆で成り立っています。SNSが社会生活の必須ツールとなったように、言語で表現出来ないことは絵で伝えるしかありません。つまりイラレが必要です。イラレが使えると使えないでは、これからの人生に大きな差が生じます。自分自身を表現するツールとして、社会の中で何かを伝えるためのツールとして、イラレは現代の社会人が最も身につけなければならない必須ツールなんです。イラレを習得し、ご自身の人生を大きく広げてください。

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