title
HOME I WEBレクチャー I 玉置の考え I 経歴


後姿
2010/08/18


皆さんもそうだと思いますが、職業柄というのでしょうか、電車に乗っていても街を歩いていても、僕は人が着ている洋服を常にチェックしています。洋服だけではありません。着ているその人をマジマジと見つめてしまいます。特にここ何年かは理想のダミーを作るという大きな目的もあったため、男性も女性も徹底的に観察しました。今回は「後ろ姿」の話をしようと思っているのですが、どうして正面ではなく後ろ姿なのか。その理由は簡単です。人は人を後から見つめるからです。

会話をする時は相手の眼を見て話すのが普通です。会話の最中にそれ以外の部位をジロジロ見てたらおかしいでしょ。人は顔に眼があるため、正面から見る時は相手にも見られていることを無意識のうちに知っています。胸やお腹や足元など、顔以外の部位をジロジロ見つめたりはできないのが普通です。では後ろ姿はどうでしょう。僕は常に人を見ていると言いましたが、じっと穴が開くほど見つめることができるのは、真後ろからしかあり得ません。相手が見られているという意識を持たないという確信があるから見つめられるのであって、電車などで自分の真横に観察対象があるときは、こっちが見ればバレてしまう可能性が高いため、ときおりチラチラと伺う程度で、もうほとんど見ることができません。このように人が人をジックリ見るという場合、望遠鏡でも使って遠くから観察する以外は、後ろ姿を見つめる以外に方法がないのです。

理想のダミーを作るために、僕は理想の体型とはどのようなものかを考えていました。もちろんこの理想とは僕の主観的な理想であって、誰でも納得する普遍的なものではありませんが、僕の考える理想をより具体的にイメージする必要があったため、まさに穴が開くほど、しかも女性を見る必要に迫られていました。しかし正面からは決して見ることなどできません。見るのは常に後ろ姿です。さりげなくそっと後に近づき、適当な距離を置いてジックリと観察するわけです。ときには何十メートルも後を追いながら観察することもあります。肩傾斜や肩甲骨の張り出し方、首の付く位置や腕の下がり方、肩先からウエストにかけての後ダキのシルエット、腰入りの強さ、ヒップの形状などなど、ストーカーだってここまでジックリ見ないだろうと思うほど、後からなら見つめることができるのです。

そんなわけで女性の後ろ姿を眺めていると、凛としたカッコイイ後ろ姿を発見できるのはごく稀で、カッコ悪い女性の多いことに幻滅します。いや女性だけではありません。男性のほとんども貧弱な後ろ姿で歩いています。姿勢コンサルタントという職業があるそうで、対象はほとんど女性だと思いますが、セミナーは常に満員だと聞きました。美しい姿は姿勢からということでしょうが、まったく同感です。ごく稀に街で見かける美しい後ろ姿の人は、男性も女性も例外なくいい姿勢で歩く人です。モデル歩きという言葉がありますが、コレクションモデルを見れば歴然です。彼女達はその道の専門家ですからあたりまえですが、生まれ持った顔や体型が美しいのはもちろんですが、それ以上に姿勢の美しさに驚きます。ピンヒールを履いた若い女性が膝を真っ直ぐ伸ばせないで歩いているのをよく見かけますが、美しさにとって姿勢がいかに重要かが解ります。

先日うちの若いデザイナーを叱ったことがあります。提出した絵型に後ろのディティールがなかったためです。すいません、忘れてました、という言葉に腹が立ちついつい怒鳴ってしまいました。忘れているのです。というより、もともと後ろ姿に意識が無い証拠です。後ろ姿の重要性が解っていない証拠です。人は人を後からしか見ることができないということは、自分も常に、後から見られているということです。後ろ姿がカッコ悪ければ、自分はカッコ悪いという評価を受けることになり、極論を言えば、人は後ろ姿で評価されているということになります。だとしたら、洋服にとって一番重要なのは、後ろ姿と言えるのではないでしょうか。僕はときどき自分でも絵型を描くのですが、必ず後ろ姿から描きます。そして若いデザイナーには後を大事にしろと言っています。後ろ姿の美しい服がカッコイイ服なのです。

男は背中でモノを言う。という言葉がありますが、僕なんかの世代はすぐに健サンを思い浮かべてしまいます。文太もそうでした。ジャック・ニコルソンもそうでした。昔からカッコイイ男は背中で語っていました。映画「チャイナタウン」でジャック・ニコルソンが着ていたスーツのカッコ良さを今でも忘れませんが、後ろ姿の重要性は、背広を着た時に顕著に現れます。パタンナーもデザイナーもそのことをもっと意識するべきだと思うのですが、カッコイイ服のキモは背中にあるものです。背中をいかに美しく、カッコ良く表現できるかが腕の見せ所だと、僕は思うのです。

 

img  
  このページのトップへ  
Copyright Koichi Tamaki