パターンとは何か

2009/05/02

分かり切っていることを改めて問われるととまどってしまいますが、まずはパターンの定義、パターンメーキングの定義というものをしっかり認識する必要があります。なぜならこのサイトで僕が記述する情報のピントがぼけてしまったり、誤解されてしまう恐れがあるからです。そしてパターンとは何なのか、パターンメーキングとは何なのか、実は案外、パタンナー自身でさえそのことをしっかり認識してないのが実情だからです。

MDとか生産マンとか営業とか、みなさんの周りにいる業界関係者に、パターンメーキングとは何かと尋ねたらいったいどんな答えが返ってくると思いますか。あるいはパタンナー自身に同じ質問をしてみてください。もちろんパターンメーキングとは文字どおりパターンを作る作業に違いないのですが、恐らくほとんどの人は頭に製図台を思い浮かべ、その前に座って眉をしかめているパタンナーの姿をイメージするでしょう。そして紙の上に鉛筆で線を引き、洋服を構成する各パーツを描き上げることだと理解しているのではないでしょうか。

—–パターンとは洋服の設計図だ——

こう言い切るパタンナーもいるくらいですから、ついつい建築設計や機械設計のように、紙の上に設計図を引く作業を思い浮かべ、パターンメーキングとは紙の上に製図を引くことだと思いこんでしまうのも無理はないかも知れません。事実多くのパタンナーが平面製図でパターンを引き、パターンメーキングとは製図を引くことだ、紙に描かれた平面の製図がパターンだと思っているのです。まずはこれが大きな間違いであることを知る必要があります。

もちろん一般的な慣用として、僕も紙に描かれた平面の製図をパターンと呼んでいます。しかし紙に描かれた平面の製図とは、実は生地を裁断するために必要な単なる裁断型でしかありません。もしCAD-CAMシステムを使うのであれば紙なんて不要だし、オーダーメイドのクチュールやテーラーでは、そもそもパターンという概念さえ存在しないのです。彼らにとってはフィッティング(着せ付け補正)するために組み上げた(たいていは現物の生地を使う)仮縫いがパターンそのものであり、我々既製服のパタンナーにとっては、トワルこそがパターンであると僕は考えています。

なぜトワルこそがパターンなのか。その答えは明白です。なぜなら服とは立体物だからです。立体物というのならサンプルでもいいのではないか? ひょっとしたら多くのパタンナーはそう考えているかも知れません。だから平面で製図を引き、トワルも組まずにファーストサンプルを作っているのでしょうが、サンプルは決してトワルには成り得ないのです。理由はふたつあります。ひとつは、そのサンプルを誰が作ったのかという点です。

サンプルを作ったのは工場やサンプル屋さんであって、少なくともパタンナー自身ではないことが普通です。パターンが洋服の設計図であるのなら、その単純な線の一本一本に制作者の意図が含まれているわけですが、その意図を正確に認識し把握できているのは、厳密な意味でパタンナー自身でしかあり得ません。もちろん縫い方や制作意図は伝えるでしょうが、昔のような国内工場ならいざ知らず、今日のような海外生産で現地の縫製オペレータに意図を理解させることはほとんど不可能です。仮に可能だったとしても、意図したとおりに縫製ができるのかといえば、現状を見る限り、これもほとんど不可能と言わざるを得ません。つまりほとんどの場合、サンプルはパターンどおりに裁断され、パターンどおりに縫われてはいないということです。パターンどおりにできてないということは、制作意図が反映されてないということで、それを見てパターンの善し悪しを検証することはまったく無意味な、無駄な行為だと言わざるを得ません。つまりサンプルはトワルの代用とならないことを意味します。

もうひとつの理由は見ているだけでは検証にならないという点です。トワルでもサンプルでもそうですが、これを検証する際は必ず生身の人間(通常これをフィッティングモデルと言いますが)に着せて行われます。これを立体補正と言いますが、これは単にフィットの具合を見るのではありません。サンプルを見て問題のある箇所があった場合、トワルならそれを分解し、引いたり押したりの立体的検証が可能です。しかしサンプルは原則として量産と同じ仕様で縫製されているため、簡単に切り開いて分析するという作業ができないのです。つまり簡単にバラせないということです。

クチュールやテーラーの仮縫いがなぜシロモで縫われているのかを考えてください。それは簡単にバラせるからなんです。もう少し正確に言うと、丁寧に、無理なくバラせるという意味ですが、無理矢理バラして生地をのばしてしまったりしては補正が狂ってしまうからで、だからバラし易いようにシロモで縫ってあるのです。既製服といえどもこの理屈はまったく同じで、パターンの完成度、つまり制作意図が正確に表現できているのかどうかを検証するためには、問題箇所をバラし、どうすれば修正されるのかを立体で分析しなければならないからです。

以上の説明からお解りのように、パターンとは立体で組み上げたトワルのことであり、それを平面的に移し替えた紙は単なる裁断用の型に過ぎません。本当の意味でのパターンとは、立体で組み上げたトワルのことなんだとご理解ください。

さてパターンとは何かが明確になりました。ならばパターンメーキングとは何かはすぐ解ります。そうです。トワルを作る作業のことです。トワルは言わば本物に対する模型ではありますが、実際に人間が着用できるという点において、本物の服となんら変わりはありません。曖昧なイメージでしかなかったデザイナーの絵を、トワルとして立体的に再現する作業こそが、パターンメーキングの本質であり、パタンナーがパタンナーたり得る中心的作業ということになります。僕はこの仕事に就いてもう35年になりますが、いまだに稼ぎの上がらない二流だと自覚しています。だからこそトワルを組んで確認をしなければ不安で仕方ないのです。以下は拙著「iPM革命序説」からの引用です。機会があったら読んでみてください。

━━━━━━━ ある仮説を立て、それをトワルに反映させる。そのトワルを多くの人間に着用させ、その結果を検証する。検証した内容を論理的に分析し、分析した結論を再びトワルに反映させ、更に次のトワルで結果を検証する。この繰り返しである。パタンナーは来る日も来る日も、この作業を繰り返さなければならないのである。この作業によってしか答えは得られないのであり、またその答えも、時代の流れと共に消え去る運命であることを知らねばならない。すぐに消え去ってしまう刹那の答えを求めて、パタンナーは迷い、悩み、苦しむのである。パターンメーキングとはそういう仕事だ ━━━━━━━