トワル作成で最も重要なことは、パターンどおり正確に裁断し、パターンどおり正確に縫うことです。トワルが何のために作られるのか、その目的を考えれば自ずとわかることですが、決して伸びたり縮んだりせず、パターンどおり正確に縫い上げなくてはなりません。そして速さです。スピードは作業の全行程で一貫して実施しなければならないポイントなので、あえてここで補足する必要もありませんが、正確性を重んじるがためにスピードが落ちるようでは、それはそれで問題です。正確性とスピードは、作業の全行程を通して必ず両立しなければならない課題でもあります。工程の先頭でもある裁断は特にこのポイントに注意しなければなりません。ここでヘボってしまうと、縫いがどんなに上手くても、パターンどおりの正確なトワルは臨めなくなります。正確でスピーディーな裁断を心がけなければなりません。 

1. 裁断に使う道具

速さと正確性を実現するために、僕は以下のような道具を使って裁断します。みなさんと違うのは、ロールカッターを使うという点でしょうか。そしてカーボン紙。これも一般的にはあまり使われない道具ですね。

1. 定規各種
2. 文鎮
3. ハサミ
4. ロールカッター
5. 目打ち各種
6. ルレット各種
7. ノミ各種
8. 筆記具
9. 鉛筆削り
10. カーボン紙
11. チャコペーパー

特に説明が必要なのは文鎮、目打ち、ノミ、カーボン紙だと思います。順を追って解説します。




文鎮

文鎮はできるだけ重い物を使います。そして重要なのは裏面です。滑らない加工が必要です。右側の文鎮はセーム革にくるまれた製品ですが、こういった滑り止め加工を施してあるものが便利で良いと思います。左は昔から僕が使っている文鎮ですが、裏に本物のバックスキンを張っています。





目打ち

下の写真をご覧いただければわかると思いますが、目打ちは先が細くて鋭利なものと、太く潰したものの2種類を使い分けます。ポケット位置などの内部情報を生地に写す場合、チャコペーパーやカーボン紙を使うのですが、先が鋭利な目打ちのだと、紙を貫通してしまうため、印が生地にうまく乗らない場合があります。そこで先の太いものが必要になるわけです。生地に目打ちを強く押し当てても紙が破れず、しっかり印を付けることができます。





ノミ

ノミは主にノッチを入れるのに使います。 オカダヤなどの手芸材料店で買えるのですが、最近のノミは材質も悪く、すぐに切れなくなってしまう製品が多いようです。うちにも何本も似たようなノミがあり、繰り返し研ぎ直しては使っているのですが、僕は写真下にあるような彫刻刀を使っています。 切れ味も良く長持ちします。とはいってもいつかは切れ味が悪くなりますから、定期的に研がなくてはダメですが・・・。





カーボン紙

チャコペーペー同様、生地に印をする際に使いますが、トワル作成は、シーチングなど白っぽい素材を扱うことが多いため、僕は昔からカーボン紙を使っています。 しかしただのカーボン紙ではありません。ちょっと仕掛けがしてあります。
カーボン紙はどこにでも売っている、黒のA4サイズ片面ですが、台紙として製図用紙(プロッタ用紙)を敷いてあります。スプレー糊やペーパーセメントで貼り付けるのですが、片面だけに貼ったものと両面に貼ったものの2種類を用意して使い分けています。紙の台紙に貼り付けてあるため、丈夫だし、例えば2枚重ねた生地の間にカーボン紙を仕込む場合など、扱いがとても楽なんです。これは消耗品なので定期的に作り直すのですが、僕にとっては実に使いやすい道具となっています。生地が黒っぽい場合、黒のカーボン紙では色がわからないためチャコペーパーも併用していましたが、最近白色のカーボン紙があることを知りました。これが意外に使えるので驚いています。黒のカーボン紙同様、台紙を貼って使っています。





裁断台

僕が使っている裁断台は180cm X 90cmサイズの製図台です。脚部はホームセンターなどで売っている組み立て家具のアングルを使って作っています。しっかりした台であれば何でも構わないと思いますが、大事なのは製図台の上に敷くビニール板です。 ロールカッターや普通のカッターを多用するため、木の板ではダメなんです。どうしてもこのビニ板を敷く必要があります。厚さは6ミリが一般的で、僕もそれを使っていますが、 もっと薄いものでも大丈夫だと思います。 そしてもうひとつ大事なことは、台の置き方です。裁断台は周囲をぐるっと一回りできるよう、壁やその他の家具から離して設置しなければなりません。場所を取るので不経済ではあるのですが、これで作業効率は飛躍的に高くなります。





2. 裁断

前にも書いたとおり、トワルはパターンどおり、伸ばしも縮めもせず、正確かつスピーディーに組まなければなりません。特にトワル作りの最初の工程となる裁断では、正確性に最も気を遣います。しかも早くなければならないわけですから、僕はロールカッターによる裁断、という方法を用いています。生地の上に粗裁ちしたパターンを置き、紙ごと生地をカットするという点が特徴だと思います。昔のように上がり線を描いたりしないので、速さも正確性も向上します。業界内でもあまり普及していないこの方法ですが、実は専門学校の学生達は普通にやっているのです。学生達は良い意味で面倒くさがり屋で手抜きの天才ですから、もっともっと効率の良い方法を次々とあみ出します。これは面倒くさがり屋のメリットで、こうした部分は我々も大いに学ぶべきだと思うのですが、何故か律儀な大人達は、効率的という言葉が嫌いなようです。先輩に教わった昔ながらの方法を、頑なに守ろうとする傾向が強いように感じます。

方法は極めて簡単です。粗裁ちしたパターンを生地の上に置き、そのパターンごと生地をロールカッターで裁断するだけです。ただしロールカッターが入らない角の部分、例えばこの前パンツなら、縫い代幅が変化する前立下部の部分ですが、こういった部分は先に、ノミでカットしておきます。ムービーをご覧になればおわかりかと思いますが、右利きの人の場合、裁断物を自分の右側に置き、左手で余白を押さえ、時計回りにカットするというのが基本スタイルです。これが逆になると窮屈で上手くカットできないばかりか、裁断物が押されて動く可能性が高くなります。時計回りにぐるっと一周すると裁断が完了する仕組みです。ノミでノッチを入れ、カーボン紙を使ってウエスト線と前中心線を写し取ります。





カーボン紙を使い、ポケット位置、ダーツ位置、ウエスト線など、パターンの情報を生地に写し取る作業を、もう少し詳しいムービーで見て見ましょう。

通常裁断物は、中表の状態で、2枚重ねて裁断します。生地の表側に印を入れたい場合は両面カーボン紙を1枚、生地の間に挟んで使いますが、生地の裏側に印を入れたい場合は片面カーボン紙を2枚使い、生地をサンドイッチするようにして使います。前述したとおり、目打ちでポイントを印する場合、先が鋭利なものはカーボン紙を貫通してしまい上手く印字できないので、先を丸く潰してある方を使うようにしています。





通常みなさんは生地にパターンを写し取り、ハサミで裁断されているのだと思います。行程は次のようになります。
1. パターンの上がり線を生地に写す
2. 生地に縫い代線(裁ち切り線)を描く
3. ハサミで裁断する

それに対して僕の方法は以下のようになります。
1. ロールカッターで生地をパターンごと裁断する

2工程も飛ばすわけですから、速さは相当なものです。では正確性はどうかというと、これもみなさんの方法よりはかなり高くなるはずです。なぜなら生地に上がり線を描く工程ですでにパターンより大きくなります。その線に縫い代を付けるのですから、実際の裁ち切り線は2〜3ミリ大きくなってしまうはずです。その分を見越して小さめにカットするか、縫い代幅をあらかじめ細くしておくとか、対処方法はあるかも知れませんが、いずれにしても時間がかかり、なおかつ正確性に欠けます。またハサミでカットする際も、線に沿って正確にカットするには熟練が必要です。よほど注意深く時間をかけて裁たないと狂いが生じます。ロールカッターの場合、パターン用紙の上から生地を押さえつけるように裁断するため、細かい部分を裁断しても、生地はほとんど動きません。だから速く正確に生地を裁断できるのです。是非お試しいただき、比較していただきたいと思います。次回は縫製を解説します。