パターンの完成度を確認するために、あるいは完成予想図をクライアント(デザイナーやMD)に認識させるために、僕たちはトワルを組みます。作ると言わず組むというあたりが業界っぽいところかも知れませんが、昔からの習慣で、トワルは作るものではなく組むものとして僕たちは育てられました。作るでも構わないと思うのですが、パターンのパーツをひとつずつ組み上げるという意味が込められているため、組むと言ったほうがニュアンスが良く伝わるのかも知れません。

僕の組むトワルには二つのポイントがあります。ひとつは人が着用出来ること。もうひとつはミシンで縫われていることです。 上記したとおり、トワルには明確な目的があります。パターンの完成度を確認することと、完成予想図を認識することです。なのでトワルは人が着用できなければダメなんです。つまり半身ではダメだということです。またピン打ちもダメです。半身のピン打ちトワルでは人に着せられません。これではダメなんです。ピン打ちの美しさをトワルの真骨頂としている方々もいらっしゃるようですが、僕に言わせれば時間の無駄です。ピンの打ち方が美しくても、それと良いパターンとは無関係だと思っています。

人が着るためにはしっかり縫製されている必要があります。しっかりさせるという点については、別にミシンじゃなく、手縫いだって構わないはずです。ではなぜミシンにこだわるのか。それは量産時に縫製オペレータが行う作業を、パタンナー自身が認識するためです。自分で縫うこともせず、量産の効率性も考えず、微妙なカーブにこだわっているパタンナーを良く見かけますが、少なくとも我々は既製服を作っているのですから、できるだけ縫いやすく効率的な縫い目を作るべきで、そのためにはパターンを作っている自分自身が、量産現場で使われるものと同じミシンで縫ってみて、縫いやすいかどうか、効率的かどうか、美しく縫製できるかどうかを認識しなければなりません。そうした観点から、僕のトワルはミシンで縫製されます。

さて、トワル作りに対する玉置のやり方、道具、考え方などを、作業工程に沿って何回かに分けて解説します。みなさんがやっている方法と比較していただき、自分の方法をより良い方法へと進化発展させていただければ幸いです。第1回目はパターン出力です。
 

1. 縫い代

僕のトワルは原則として縫い代1cmで縫われます。修正に対応できるよう広幅の縫い代を付けたほうが便利だと思われるでしょうが、それでもあえて1cmにこだわります。

なぜ1cmなのか。それはもちろん時間短縮のためです。裁断工程をご覧いただけばおわかりかと思いますが、特に1cmでなくても構いません。縫い代幅が均一であるという点がポイントです。もし場所によって様々な幅が必要だとしたら、正確に縫うためにはどうしても上がり線が必要になります。生地に上がり線を描き、その上をトレースするように正確に縫わなければなりません。しかし生地に上がり線を描き込むことはかなりの労力を必要とします。手描きでパターンをやっていた時代はそうでした。上がり線のパターンを生地の上に置き、外形線を写し取り、その線に対して縫い代を付けるという行程です。例えばテーラードジャケットの前身を考えてください。この2行程だけで15分以上かかってしまいます。しかし幅が均一な縫い代なら、ましてやその幅が1cmや2cmなら、上がり線など無くても、ちょっと慣れれば誰でも正確に縫うことができます。ステッチゲージも必要ありません。押さえガネの端と生地の裁ち端との間隔を揃えることで、均一に縫うことができます。そうすることで15分の時短が達成されます。

もちろん部位によって上がり線が必要な箇所もあります。たとえば前パンツの前立部ですが、僕はベルクロをファスナー代わりに取り付けます。後ほど写真で解説しますが、そういった箇所は縫い代を折り返す必要があるため、上がり線に印を付けなければなりません。パンツのウエストもそうです。既存のベルトを地縫いせず叩き付けるため、上がり線を記しておく必要があります。
 

2. 出力

縫い代が付いたパターンはプロッタから出力します。プロッタはパターンデータを送信することで、あとは勝手にパターンを描き出し、おまけにカットまでしてくれる便利な機械です。プロッターの設備が無い場合、大型のプリンターを使うという手があります。サイズはいろいろあるでしょうが、最近はこうした機械も安くなり、A1クラスなら20万以下で購入できるようです。A4やA3なら2〜3万で買えるようなので、プロッタと比べれば面倒には違いないのですが、これでも十分実物大のパターンを出力できます。いわゆる分割印刷をするわけですが、イラレからの出力方法を以下に解説します。

まずはじめにアートボードのサイズを、出力したいパターンのパーツ毎に変更します。パターン縦横の長さを測り、それより一回りほどの大きさのアートボードを作り、その中にパーツを納めます。




次に分割印刷の準備をします。イラレCS1以前のバージョンをお使いの方は、残念ながらこの方法は使えません。地道にコツコツと、マニュアルで分割印刷をしてください。

イラレのプリント設定画面を出すと、以下の画像の赤丸部分「タイル」にチェックを入れます。更に右側の「重なり」に数値を入れます。1枚の印刷範囲が互いに重なり合うよう設定しますが、15〜20ミリもあれば十分でしょう。





完了ボタンを押して画面を閉じます。ページツールに持ち替え、アートボードの左下の角に合わせクリックします。余分なページがある場合はそのままリターンキーを押してみてください。ムービーのように適正枚数に収まるはずです。この余分ページを出さないために、アートボードはパーツギリギリの大きさに設定する必要があります。 この場合は8枚で収まるというわけです。





次は重なり部分に合い印を引きます。これは分割プリントで出力したタイルを、貼り合わせる際の目印とするものです。合い印はクロスでも線でも何でも構いません。ここでは単純に線を引いて合い印とします。 ムービーにあるとおり、タイルの重なっている15〜20ミリの中に引かなければなりません。





以下は実際にプリントアウトしたものです。用紙はA4です。この大きさのパーツで、全部で8枚となりました。みなさんに良く解るよう、パターンを描いている線をかなり太めにしてあります。実際はこんな太い線は使いませんよ。繊細な線で線と線を重ねるように貼り合わせます。





さて貼り合わせてみましょう。重なり部分に引いた線分が、上下左右きちんと重なるように貼り合わせます。一方をカットしてもう一方に重ねるという手法で貼り合わせます。とりあえずこれでパターン出力が完了しますが、ここで注意点がひとつあります。汎用プリンタは専用プロッタに比べると精度が落ちるという点です。プロッタは縦も横もほとんど誤差無く出力されますが、プリンタは機種によっても違うでしょうが、0.1〜0.5%ほどの誤差が出ます。ちなみにうちの機械だと約0.4%、1メートルに対して4ミリほどの誤差になります。これに切って張ってという作業が加わるため、 誤差は更に大きくなります。そこら辺を十分注意して組んでください。





最後のムービーは、プロッタから出力する様子を写しました。イラレで引いたパターンを、プリントアウトと同じ要領でプロッタに送信します。あとは勝手に描いて勝手にカットしてくれるんですから、これは確かに便利です。縫い代をカットしたい場合はカッターを、描くだけならペンを選んで出力命令を出します。ちなみにトワルを裁断するときは、粗裁ちのパターンを使いますのでカットしません。確かに便利ですが、この機械はとても高価です。果たしてこんな機械が必要なのかどうか、ここは悩みどころですね。





CS1以前のイラレを使っている方ですが、先に記したとおり古いイラレでは分割印刷ができません。正確に言うと、分割印刷はできるのですが、ページの重なりを表現できません。そこでマニュアルで分割印刷をすることになります。上のムービーでご覧いただいたように、パターンを8分割し、重なり分を作り、8回に分けてプリントすればいいだけのことです。もちろん合い印の線は重なり部分に入れなければなりません。要領は前述のタイル印刷とまったく同じですのでお試しください。次回は裁断を解説します。