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TJメカニズム 6.....フィットする背中



テーラードの後身肩線にイセが入っているのは、肩甲骨のクセを処理するひとつの方法として認識されています。それが真実かどうかはさておき・・・と、ちょっと意味深な言い方を、僕は「肩胛骨のメカニズム」の中で言っています。

えっ、それって、真実じゃないんですか・・・?
もしそれが真実では無いとしたら、テーラード後身肩線のイセは何のためにあるのでしょうか。常識として認識されているそんな質問を、改めて問われると戸惑ってしまいます。

先に答えを申し上げましょう。
肩線のイセは、もちろん肩胛骨の膨らみ、背中の丸みを包み込むためにあるのは事実です。しかしそれは、イセを入れる目的の50%に過ぎません。残りの50%は、背中のフィットを促すためにあります。

テーラードジャケットのキモは背中にあると、例えば「後姿」「TJメカニズム 1.....背中心地の目」などの中で僕は申し上げましたが、みなさんも同様にお考えのようで、ダキ落ちや突きジワが無いことはもちろんですが、ウエストのクビレにぴったりフィットさせることがテーラードジャケットの背中のキモであり、これがスーツを美しく、魅力的に見せるひとつのカギだと考えているようです。

もちろん僕も同感です。下の写真は他のページでもご覧いただいているものですが、美しい背中には、何とも言いようのない説得力があります。肩線のイセは、写真白丸部分がぴったり身体にフィットするために、どうしても必要な技術だったのです。
 

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「常識は常に間違っている」と言ったのは、トヨタ創業者の一人、大野耐一氏です。僕のとても好きな言葉なのですが、物事の本質は意外なところに隠されていることを示唆する、とてもいい言葉だと思います。常識として信じていた肩イセの目的が、実はウエストのフィットにあったという事実。今回はこの点にフォーカスを当て、そのメカニズムを探りたいと思います。  

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1. ウエストの絞りと振込量

ウエストを強く絞れば身体にフィットするのは当たり前です。
そこで多くのみなさんは、ウエストのクビレにフィットさせるため、背中身頃のウエスト部を極端に繰ったり、あるいは振込量を多く取り、背中心線を強いカーブで結んだりしています。しかし残念ながら、ウエストの絞りとフィットは、無関係であることを、はじめに知る必要があります。ウエストをいくら絞っても、振込量をいくら多く取っても、背中は浮いてしまうのです。

下の写真は、背中心をワ取りのパターンで組んだトワルです。もちろん肩をイセ、背中身頃にクセ取りを施してあります。背中心をワで取っているということは、振込量がゼロだということです。それでもここまでウエストのクビレにフィットするのですから、ウエストの絞りや振込が、フィットとは無関係であることを証明しています。

 

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2. 浮きの原因を探る

職人がしっかり仕立てたテーラードは、誰が着用しても背中がぴったりフィットします。しかし既製服の多くは、背中が身体から離れて浮いています。 どうして浮いてしまうのか。まずはそのメカニズムを探らねばなりませんが、ひとつの大きな要素は、肩胛骨や背中の膨らみから出るクセにあります。

左上段の写真は肩胛骨の頂点からクセが落ちている様子を表しています。
このとき背中心地の目は、裾が右(右半身)に向かって流れているのがわかります。これは肩胛骨の膨らみと背中心の膨らみが、肩傾斜によって右に押し出されるためですが、もしこの状態のまま両身を組んだら、背中心にそのしわ寄せが集中し、いわゆるハネとなって現れることがわかります。
 

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次の写真は背中をワ取りにしたものですが、右身頃に流れようとする背中心を、ダミーの縫い目に沿って垂直に戻すため、ウエストから下にハネが出ている様子を写しています。  

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次に背中を振り込んだ場合を考えてみましょう。
次の写真は、背中心ウエスト部分で約1.5cm振り込んであります。平均的なテーラードジャケットは、概ねこの程度の振込になっています。これによって肩胛骨のダーツ分はほとんど背中心に割り振られ、したがってウエストから上は、比較的綺麗に収まっている状態です。

しかしウエストから下はどうでしょうか。
ウエストから下の地の目は、必ず背中心に沿って垂直に戻さなければなりません。これがテーラードジャケットのひとつのルールです。なのでどうしても、上記のワ取りと同様、その分のハネが裾に生じてしまいます。

トワルはピンで押さえているため動きませんが、ピンを外し、両身で組まれた場合、このハネが原因となり、ウエストのフィット感を阻害します。ワ取りの場合も振り込む場合も同じメカニズムが働きます。このハネを何らかの方法で処理しない限り、決して浮きは収まらないのです。

そしてもうひとつ、注意しなければならない点があります。それは横地の目の通し方です。これもテーラードジャケットのルールのひとつですが、背中の横地の目は水平にするというのが原則です。左の写真では良く解らないかも知れませんが、背中心がワ取りのときはそうでもありませんが、振込量を多く取れば取るほど、横地の目は脇が下がった「へ」の字になってしまいます。これはルール違反です。というより、美しくないですね。

横地の目を正すためにはアイロンによるクセ処理をしますが、他の部位でも同じですが、クセ処理をするためには、パターンそのものが、処理を前提とした設計になっていなければなりません。ここでは肩線のイセがそれに当たるわけですが、イセを処理することで、横地の目が水平に変化するのです。
 

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3. ハネの処理方法

さてここからが核心です。
次のムービーは上で解説したハネの分散を表しています。
ウエストから下に落ちているハネは、少なくともウエストより上の位置まで引き上げる必要があります。そして何らかの方法でこれを処理しなければなりませんが、その方法を中段の図で示しました。

図ではハネを3分割し、ウエスト、肩線、その中間、という位置に分散しています。
しかしこれはあくまでも便宜的な図であり、必ずしも3等分である必要はありません。生地の特性や縫製技術のレベルに応じて、適当に割り当てればいいと思います。重要なことは、ウエストから下に生じるハネを、ウエストより上に引き上げるという点です。

正確に言うと、引き上げるというより、引っ張ると言う方が正しいですね。
生地を伸ばしながら肩先方向に引っ張るのです。これは図や写真では解りませんが、相当強い力で引っ張ります。これがつまりクセ処理を前提としたパターンメーキングですが、理解するのがちょっと難しいところでもあります。
 


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次の図は上図の処理方法を具体的に表しています。手順は以下のとおりとなります。

まずはウエストから下に落ちていたハネを、赤矢印の方向に引っ張り上げます。
これは上に書いたとおり、かなり強く生地を伸ばすのですが、バイヤス地なので、伸ばそうと思えばいくらでも伸びてしまいます。どの程度伸ばすかが問題なのですが、それは本チャンの生地によって変わってくるため、できればシーチングではなく、本チャンの生地でドレーピングをしたいところです。

肩先に向かって強く引っ張ることによって、生地はかなり伸ばされますが、後でトワルをバラせば、伸ばした分は元に戻ることになり、パターンで見ると、以前より脇の距離が短くなっているはずです。ここがひとつのポイントです。これは背中心に対する脇側の距離が短くなるという意味ですが、これがとても重要なポイントです。

生地を肩先に向かって引っ張ることで、肩胛骨を包むように斜めのシワができます。これを消し去るような要領で、そのクセを肩線のダーツ分、つまりイセ量として処理します。この操作によって、上記した横地の目の脇側が上に引き上げられ、ここではじめて水平になってくるわけです。
 

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さてここまでをまとめてみましょう。

1. 肩線のイセは、背中のクビレに服をフィットさせるためにある。
2. それはパターンに於ける、背中心に対する脇の長さを短くするためのテクニックである。
3. アイロン操作によって、背中心ウエストから肩先までの距離が伸ばされる。
4. この操作によって、ウエストから上の横地の目が水平になる。

 

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4. 背中のアイロン処理

最後に背中のアイロン処理を見ておきましょう。
この処理方法は、テーラード本来のクセ取りとは異なっています。本来の方法よりはかなり簡略化された方法で、しかも操作が簡単であることが特徴です。簡単な方法であれば、外国のあまりレベルの高くない工場でもできるため、みなさんも一度トライしてみてはいかがでしょうか。

ポイントは2点。
一つ目は、背中心を裾に向かってウエスト位置まで引き下げ、肩先を指でつまみ、動かさないように注意しながら、背中上部を袋状に包み込む感覚で追い込みます。
二つ目は、縦横の地の目で成される長方形が、平行四辺形になるようにアイロン操作をすることです。横地の目が脇側で上がるような、緩いカーブになっていればOKです。
ちなみにウエストから下は、クセを取らないよう注意しなければいけません。追い込んだ際にできるひずみを取る程度にとどめ、それ以上余計な操作をしてはいけません。

下段の写真に処理の前後の違いを表しました。左が処理前、右が処理後です。
横地の目の違い、マス目の違い、背中上部が袋状になる様子・・・、写真では、ちょっと解りにくいかも知れません・・・。

以上、肩のイセの意外なメカニズムについてのお話でした。残念なのは、パターンテクニックのみで、背中のフィットを実現できないことです。クセを取るための切替線でも入れられれば話は別ですが、3パネテーラードジャケットでは、どうしても、アイロンの力を借りるしか方法がありません。なんだかとても悔しい気分です。
 



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Copyright Koichi Tamaki