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パンツのメカニズム 7 膝位置



何度も申し上げますが、パンツはヒップ、太腿、脛という3本の単純な筒からできています。そしてそれぞれの筒の継ぎ目部分は、そこで面が変化するわけですから、当然のことながらシワが出ることになります。僕はこのシワがカッコ良くなるよう、カッコイイシワが出るよう心がけてパターンを作っていますが、もしシワを嫌うのであれば、それぞれの筒の継ぎ目で面が変化しないようなパターンを作ることになります。それはつまり3本ではなく、1本の筒にするという意味です。ヒップトップを頂点に、裾口までを直線で結べばいいわけですが、裾口が広ければストレートな、裾口が狭ければ先細シルエットの筒になります。

その場合、 シルエットはヒップと裾幅のふたつの寸法のみで決定されることになります。もちろんそれが狙いのシルエットなら特に問題はありませんが、どうしたってパンツは太くならざるを得ないし、それでは面白くも何ともないですね。やはり膝で面を変化させ、全体のシルエットに豊かな表情を付けなければなりません。最近の流行でもある細いパンツを作ろうと思えば、どうしても膝に中継点を設け、太さの調整をしなければなりません。

ところで僕が言う太い細いとは、主にワタリ寸法を指します。ヒップに対するワタリ寸法なのですが、同じヒップ寸で比較したとき、ワタリの太いパンツを太パン、ワタリの細いパンツを細パンと呼んでいます。
パンツはそもそも前身と後身の2パーツしかなく、なおかつクセ取りも行わない前提ですから、デザインを創造するにあたり、膝のアクセントは重要な要素になってくるはずです。ではいったい膝位置は何によって決定されるのか。あるいはまったく自由に決めることができるのでしょうか。ここではそのあたりの解説をします。
 

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1. ドレーピングから得た情報は崩さない

パンツパターンの肝である尻グリと内股線を求めるために、むしろ仕方なくドレーピングをするのだと言いましたが、そこで得られた情報は原則として崩してはいけません。崩してはいけないというのは、その後の平面操作で、勝手に変化させてはいけないという意味です。例えば運動機能など、ドレーピングでは得られない情報を後から付加する時など、最初に得たドレーピング情報を崩すことがありますが、これはあくまでも意図的、創意的な操作であるため問題はありません。

怖いのは先入観や常識に惑わされることです。これは平面しか経験していないパタンナーにドレーピングをやらせたとき顕著に現れます。ドレーピングから得た線が自分の知っている線とあまりにも違っているため、こんなはずではないという根拠の無い先入観によって変化させてしまうのです。それではドレーピングをやる意味がまったくありません。最初から平面でやればいいわけです。どんな線になるのか解らないからドレーピングという手法を採るのですから、そこで得た線は、仮にそれが見たことの無い形状をしていたとしても、これを変化させるわけにはいきません。

シルエットを構築する上で特に重要なのがテーパーの角度です。今回のテーマである膝位置とも密接に関係してくるこの角度は、何が合っても変化させてはいけません。何故か。この角度こそが、パンツのシルエットそのものだからです。そしてさらにこの角度が、もっとも不明瞭な尻グリの形状を決定しているからです。シルエットを創りたいがために、尻グリの形状が解らないがためにドレーピングをやっているわけですから、それを崩すということが何を意味するかは言うまでもないですね。
 

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2. 膝位置によって変化するシルエット

ドレーピングによって得られた線は膝より上のヒップ及び太腿の筒でした。したがって太腿テーパーの角度は変化させてはいけません。これ以降、自由に平面操作ができるのはあくまでも膝から下、脛の筒です。

裾幅を任意に設定したとき、脛の筒のシルエットは、左図のとおり膝の高さによって変化することが解ります。つまり膝位置を変えることでしか、脛のシルエットは操作できないということになります。脛のシルエットは膝位置が高くなればなるほどテーパーが強くなり、低くなればなるほどストレートからフレアへと変化します。

そしてもうひとつ重要なメカニズムが見えてきます。膝位置は自由に変化させることができても、膝幅は結果でしかないという事実です。平面製図で膝幅は必須項目となりますが、このような視点で捉えた場合、幅を設定することがいかに無意味であるかがお解りかと思います。膝幅はあくまでも、全体のシルエットが作られた結果として存在します。
 

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3. 継ぎ目の角度

膝の高さによって筒のシルエットが変化するのは解りましたが、その意味を別の視点から考えてみましょう。太腿を作っている筒と、脛を作っている筒との継ぎ目が膝位置ということになるわけですが、膝の高さによって、つまり継ぎ目の高さによって、筒と筒とが成す角度が変化することを意味しています。この角度が180度になったときが最大ということになるわけですが、これはつまり直線になるということで、冒頭に書いたような、ヒップトップから裾にかけて直線で結ばれたシルエットになります。この場合はまったく1本の筒ですから、ジーンズのようにたたんでもスラックスのようにたたんでも同じようにたためます。つまり人間の脚という中身が入っても、この筒は問題なく広がってくれるはずです。

逆に継ぎ目の角度が小さく(鋭く)なればどうなるでしょうか。上図で見ると膝位置が低い場合がそうです。ジーンズのようにたたむのは楽ですが、スラックスのようにたたむのは難しくなります。それは紙などで模型を作ればすぐに理解できますが、これはつまり人間の脚という中身が入り難くなることを意味しているのです。継ぎ目部分に多くのシワが出ます。しかしこれは仕方の無い現象です。だからパンツはアイロンでクセ取りをするわけですが、クセ取り無しでこれを回避する方法はひとつしかありません。角度のより大きな太いパンツを作ることです。現実問題として、太いパンツを作るのはとても楽です。逆に細身のストレートパンツを作ることはかなり難しい作業です。
 

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4. 膝位置と裾幅は最初に想定する

膝はシルエットを作るための重要な要素であり、その位置は目的に応じて自由に変化させることができます。しかしデタラメでいいというわけではありません。あくまでも必然性に基づいていなければなりません。ここで解説したメカニズムを理解していれば、合理的な位置が結果として見つかるはずです。

しかし現実的には、膝位置も裾幅もドレーピングの最初の段階で想定しなければなりません。というより、これを想定しなければドレーピングができないのです。膝位置と裾幅が全体のシルエットを左右する重要な要素であるとしたら、事前にこれを想定するのはあたりまえの話です。上記のメカニズムに基づき、どうあるべきかを考えなければなりません。

求めるシルエットを得るためには、膝位置はどのくらいに設定するべきか。裾幅はどの位に設定するべきか。股下はどうか。こうした要素をすべて想定した上でドレーピングに臨みます。他の要素が決まっているからこそ、最後の要素である尻グリや内股線を得ることができます。

下図は同じダミーで作った太パンと細パンです。想定した膝位置の違いを見てください。
細パンはどうしても継ぎ目の角度が小さくなるため、またワタリから太腿をできるだけ細く仕上げたいため、ドレーピングの当初から膝は高めにしようと想定しています。
一方太パンは継ぎ目の角度が比較的大きくなるため、膝位置は低めで構いません。それでも想定した裾幅が21cmであるため、膝ではそれなりの角度が付いてしまいます。

もう一カ所注目すべき点があります。それは太腿の筒のテーパーの違いです。太パンのテーパーに対して細パンはかなり強いですね。細パンを作るためにはどうしてもこうなってしまいます。左側はかなり頑張った細パンですが、恐らくノンストレッチではこのくらい(ヒップに対するワタリ寸)が限界でしょう。上記のとおり、太いパンツを作るのは論理的に見ても簡単です。しかし逆に細いパンツを作るためには、乗り越えなければならない障壁がたくさんあります。そこがまたドレーピングの面白いところでもありますが、ストレッチ素材に逃げる前に、布帛の限界に迫ってみましょう。
 

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Copyright Koichi Tamaki