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パンツのメカニズム 4



これまでの解説を基に、ここではパンツのメカニズムを実践で検証します。ドレーピングによるパターンメーキングで、実際に作ってみようというわけです。
作るパンツは女性の美脚を意識したレギュラーストレートパンツです。原型的な意味合いから、それほど細いパンツではありません。生地はシーチングの綾織りを使いますが、地の目を正確に認識するため、ドレーピングでは平織りを使います。行程は以下の順序となります。

1. 半身ドレーピング
2. トレース
3. 両身トワルで確認
4. 立体修正(ボディーを使用)
5. フルレングス両身トワルで確認
6. 立体修正(ボディー及びフィッティングモデル)
 

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1. 半身ドレーピング

下の写真は最初のドレーピングです。上段はストレートスローパーを組んだもんのです。ヒップラインと脇に地の目を通し、脇からのシルエットはほぼ垂直に、正面からは内股をややテーパーに落ちるよう組んでいます。右側は内股側から見たものですが、やはりほぼ垂直に下に落ちています。

一方下段の写真は、上のストレートを出発点とし、そこから細身のストレートを意識してシルエットを作り込んだものです。脇と後にダーツを取り、膝にかけてテーパーを強くしました。もちろんヒップラインから下の脇は最初のままで手を付けていません。あくまでもテーパーのシルエットは内股で作ります。テーパーの程度は膝幅をどのくらいに設定するかがカギとなりますが、実際には数値を見ながらやるわけではないので、感が頼りになります。

上段と下段の写真を見比べれば解るとおり、それほど極端なテーパーを付けているわけではありませんが、特に女性のパンツは内股のスッキリ感が生命線だと思っているので、前身の小股から内股のシルエットは何度もピンを打ち直して納得のいくまでやります。

完成したトワルに尻グリとダーツをマーキングをします。マーキングは油性のマジックペン(極細)で行いますが、生地がシーチングのため、にじみの少ないものが適しています。最初のドレーピングはここまでです。数本のピンで止める程度にとどめ、股上の深さやウエストラインなど、細部のディティールまで踏み込まないのが僕のドレーピングの特徴です。
 

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2.トレース

下の写真はドレーピングしたトワルをバラしたものです。写真ではよく解りませんが、マジックで主要な線がマーキングされています。これをスキャナーで読み込みイラレでトレースするわけですが、スキャナーは必ず専用の大型を使う必要があります。

よくデジカメでこのトワルを写している人がいますが、普通のデジカメではレンズの球面収差によって画像がゆがんでしまいます。それをソフト上で修正する機能を持ったCADがあるそうですが、それも元画像の精度に依存されるわけですから、正確性という点から、デジカメでのトレースはやめた方が無難です。
 

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さてここからはイラストレータのトレースです。ここで重要なことは、バラしたトワルのマーキングどおり、正確にトレースすることです。人間とは脳みそでモノを考える質なので、ついつい余計な先入観で線を引きがちですが、素直に、あるがままに線を引かなければなりません。この段階でのトワルは、尻グリを除きすべて直線で表現されているので、トレースそのものは単純で簡単です。問題は曲線部、ここでは尻グリですが、ここに先入観を入れないよう、素直にトレースする必要があります。

下はトレースとその後の平面作図を表していますが、作図とは言っても取り立てて製図を引くのではありません。ハギの距離合わせをしたり地の目を直したり、原型となったトワルのラインを崩さずつじつまを合わせるだけのことです。図は作業工程に沿って上から順番に配置してあります。一番目はトワルをトレースした直後です。前身と後身に分けてトレースしてあります。ヒップラインはトワルに引かれていた鉛筆のとおりですが、これが当初の地の目線です。これを赤で示した新しい地の目に変更します。新しい地の目は、脇線と内股線の平均を取ったものです。僕はいつもイラレのブレンドツールを使いますが、イラレを使わない場合は、ワタリ線と裾線の中心を結ぶ線だと考えて間違いありません。さらにこの段階では、脇ウエストダーツ、脇下線、内股線の距離を正確に合わせます。このとき直線部はその角度を絶対に変えないよう注意しなければなりません。

次の図は股上を設定しているところです。通常みなさんは股上を垂直線で表現します。図では緑線がそれにあたりますが、これは極めて平面的な考え方なので、僕は常に尻グリ全体の距離を股上として考えています。例えば股上が20cmのパンツが2本あったとしましょう。一本はワタリが25cm、もう一本のワタリは28cmだとします。これを履き比べた場合、ワタリの細いパンツの方が股上が浅く感じられます。もちろん端からの見た目もそう見えます。それは尻グリ全体の距離が短くなっているためで、その分だけ股上が浅くなってしまうのです。つまり股上の深さとは尻グリ全体の相補的関係によって成り立っているということで、平面的な高さだけで考えると間違いを起こします。

ここでは全体距離を48cm(ベルトを含まない)にしたいので、図中赤線の位置まで下げることになります。図中の数値は股上を設定する際の計算に用いるためのものですが、コンピュータを使ったパターンメーキングでは、センチ(長さの単位)ではなく、しばしばパーセント(比率)を使って数値を割り出します。その方がバランスが崩れないからです。

次はウエストラインを描きます。図の黒破線は上記したウエスト位置を結んだものですが、この位置で曲線を描くと、カーブのピークが後身頃に偏ります。黒丸はピークの位置を示していますが、なるべく自然な曲線を得るにはピークは曲線の中心に来るのが望ましく、そのために赤線で示すよう、前中心と後中心でウエスト位置を修正し、ピークが曲線の中心、脇あたりにくるよう引き直しています。ただしこれは意匠線なので、パタンナーの意図によって自由に変化して差し支えありません。僕は前より後中心が高くなった方がいいと考えるので、このような位置にしています。

最後の図は完成図です。尻グリとウエスト以外はすべて直線です。股下寸法は21cmですが、これが膝位置となります。膝位置はパンツのシルエットを決める上で重要なポイントになりますが、これも意匠線なので、こうでなくてはならないといった法則は特にありません。気をつけなければならないのは、ドレーピングで作ったテーパーの角度を壊さないということです。

さてここまでを平面製図で仕上げ、この膝位置のままで確認用のトワルを組みます。確認はボディーを使っての作業となりますが、このトワルは両身で組みます。
 

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ご質問の回答ムービー

このページについて、視聴者の方より以下のようなご質問をいただきました。

上の解説図の3番目、ウエスト線を書き直す図ですが、前身と後身で脇の高さ(ヒップ線の高さ)が異なっているのはなぜでしょうか。

左のムービーは、このご質問への回答です。
問題の図は、中間工程を省き結果のみをお見せしているため、わかりにくいものなってしまいましたが、脇入れをしたあと、後身頃ダーツをたたんだ状態の図です。前身が後ダーツの止まりを中心として、反時計回りに回転すると、このような位置関係になりますが、脇の距離や高さが変化しているわけではありません。


ご指摘、ご質問に感謝いたします。
より解り易い解説に努めたいと思いますので、こういったご質問はどしどしお寄せください。ありがとうございました。

 


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3. 両身トワルで確認

確認用トワルは必ず両身で組まなければなりません。なぜなら特にここで確認したいのはダーツや尻グリの状態だからです。ダーツや尻グリは両身がお互いに引き合って構成される部位であるため、引き合う相手がない半身では正確な尻グリを確認できないのです。衿や身頃本体など、上物の確認も同様ですが、必ず両身で組むようにしなければなりません。ここで手を抜くと、最終の完成度が落ちることは間違いありませんし、なぜ、どこが悪いのかを、認識できなくなってしまいます。それではドレーピングの意味そのものも無くなってしまうので、しつこいようですが、手を抜かないよう心がけてください。

さて下の写真は確認用トワルをボディーに着せたものです。ヒップが不足して前が開いてしまっています。これは後ほど修正しなければなりませんが、女性のパンツで最も気を遣いたい前身の小股、後身尻グリなどは綺麗に入っているようです。内股のラインもスッキリ仕上がっています。前述したとおりこれらのトワルを組む際、決してアイロンのワザを使わないことを、再度申し上げておきましょう。各縫い代は両割の始末ですが、これは単純に割るだけで、クセが取られてしまうようなアイロンの当て方は決して行ってはいけません。あくまでも、パターンの完成度を見るためのトワルなのですから。
 

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4. ボディーを使った立体修正

まずは前の開きを直さなければなりません。単純に足りない分を、前でそのまま付加してしまうような人はいないと思いますが、どうしてこうなってしまうのか、その因果関係と必然性を考えるのが立体修正です。間違った修正をしてしまっては元も子もありませんし、パンツのメカニズムという本質を見失うことになり、そのような作業を続けていたら、いつまで経ってもスキルは身につかないものだと認識してください。

前が開くのはヒップが不足しているためです。それは誰が見ても解ります。最初のドレーピングではしっかり分量を確保していたはずなのに、どうして両身だと不足するのでしょうか。ここが両身で組まなければならない理由でもあるのですが、第一に推測すべきは、反対の身頃と互いに引き合うために出る現象ではないのかと考えてみることです。
次に推測すべきはアイロンによるシーチングの縮です。もうひとつはダーツの取りすぎではないでしょうか。ダーツは脇と後の二箇所にありますが、このトワルを見る限りは、ヒップラインというより、もう少し上のミドルヒップの辺りが不足しているようです。ダーツ分量を減らし、後は更に止まり位置を上げてみる必要がありそうです。

上は上記の推測を試した写真です。推測は必ず実験で確認する必要があります。決して推測のまま先に進んではいけません。この場合は上記の推測どおり、前中心は首尾良く納まりました。後ダーツはウエストで2ミリ狭くし、止まりの位置を2.5cm上げました。また脇はウエストで8ミリ(前後合わせて)狭くしました。その分ミドルヒップ寸が大きくなったわけです。

下は内股の裾部分を少し下から見ている写真ですが、僕は白矢印で示した浮きが気に入りません。最初のドレーピングで作ったトワルの裾幅、つまりこの場合は膝幅ですが、この寸法が約44cmありましたが、裾幅を42cmほどにしたいと考えていたので、この膝幅では少々太すぎるかなと思っていました。この浮きを取ることで膝幅を少なくできますね。それでもまだ、恐らく膝幅が大きすぎると考え、写真にはありませんが脇の裾、膝位置で約1.8cm(前後合わせて)つまみました。前述したとおり、脇ではほとんどシルエットの操作はできませんので、これが限界です。

内股の操作は、縫い目を開き前身を上方向に引き上げますが、同時にワタリ寸も少し細くしました。結果として赤矢印のように前身を引き上げるのですが、このとき後身は一切動かさないよう、しっかりピンで止めておきます。写真では解りにくいので右の図で示しました。前身の内股線と小股のカーブが、赤線になるような修正をしています。

ここからは図解を使い、上記の修正をパターンに反映させた様子を解説します。例によって上から順番に作業工程が示されています。最初が修正内容をパターンで示したものです。赤線が修正線です。もちろんですが、修正後に脇や内股線の距離合わせも行っています。

次は膝から下の作図です。膝幅は結果的に43.46cmになりました。裾幅を42と決めているのでちょうどいいくらいです。ワタリの中心直下に地の目線を引き、股下寸法を68cmにしました。さてここで前後共に裾線を描くわけですが、単純に42cmの半分を割り振るわけではありません。
コンピュータで平面作業をするようになって、手引きの時代とはいろいろなことが変化しましたが、最も大きな変化は、長さの単位ではなく、比率を使うようになったことです。つまりセンチからパーセントへの変化です。バランスを重視するという本来の考え方が、コンピュータを使うことで現実となったわけです。
例えばこの場合は裾幅ですが、42cmの前後身頃に於ける配分は、ドレーピングの結果として生じた膝幅のバランスを元に計算します。左図の数値がそれを示していますが、前身膝幅21.17は、全体寸法43.46の48.74%、後22.28が51.26%の割合です。この割合のまま42cmの裾幅を配分します。すると前裾幅は20.47となり、後裾幅は21.53となります。僕はイラレを使っているため、それらと同じ正円を描き、これをガイドとして裾幅を決定しています。

さてここでちょっと気になることがあります。
図では小さすぎて良く解らないかも知れませんが、膝幅の中心が、ワタリ中心の直下にこないという点です。また逆に見れば裾幅はワタリ中心の直下にあるため、前後とも、裾幅の直上に膝幅がないという点です。ワタリから下は中心に対して対象なのがパンツの原則なので、膝も裾もワタリ中心の直下になければなりません。この程度の差寸なら無視しても構いませんが、厳密な意味ではドレーピングに狂いがあるということです。もしこの差が大きすぎる場合はドレーピングをやり直さなければなりませんが、ここでは良しとして無視することにします。

さて次第にパターンは完成に向かってきました。次の段階ではフルレングスでトワルを組み、モデルに着用させて検証しなければなりません。そこでモデルの各部位のサイズに当てはまるのかどうか、つまりこのままでモデルが着られるのかどうかを検討します。
ここまでの作業行程からお気づきになったかも知れませんが、僕が任意に想定した寸法は裾幅の42cmのみです。裾幅を決めることで膝幅が必然的に決まってきましたが、それ以外はすべてボディーとドレーピングの結果によって生じたものだという点をご確認ください。ヒップもワタリも、数値は一切気にしませんでした。もちろん気にする必要がないからです。前後中心のネカシ量や尻グリの形状もそうですが、各部位の寸法は、どんなシルエットにするのかというイメージ(完成予想図)と、使うボディーによって必然的に生じた結果です。

次の図はここまでの完成図です。
ヒップ寸法を測ってみると87.74cmでした。モデルのヒップが約87cmなので、このままではユトリがまったくありません。着れませんね。そこで左にあるとおり、ヒップ寸法がユトリを加えて91になるよう、パターン全体を拡大します。拡大は当然ながら相似形、つまり縦横比率を変えずに行わなければなりません。そうでないと、せっかくここまでやってきたバランスが狂ってしまうからです。ウエストやワタリもすべてが同じ比率で大きくなります。ただし裾幅はあくまでも42cmにしたいので、そこだけは拡大した後、元に戻しました。したがって裾に向かってのテーパーが若干強くなったわけです。さらに先ほど気になる点としてあげた膝幅の不均等を、2、3ミリではありますが修正をします。

修正とパターンの加工は以上です。前開きの深さを13cmにし、このパターンで両身トワルを組みます。パターンの仕上がり寸法を以下に記します。

ウエスト..............78.4
ヒップ..................91
ワタリ..................28.6
尻グリ距離...........49.4
膝幅......................22.5
裾幅......................21
 

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5. フルレングスの両身トワルで確認

完成したトワルを二人のモデルに履かせてみました。
写真上段のモデルはワンサイズほど細めの体格です。ちなみに寸法は以下のとおりです。
ウエスト..............58(最細部)
ヒップ..................83(ヒップトップ)
トワルのウエストが約78cmですから、うえすとは大きすぎます。ピンで多少つまんでありますが、ワタリや膝幅ももう少し細くていいという感じです。それでも正面から見た小股の入り方などはかなりいいのではと思っています。後の尻グリの入り方も悪くありません。女性パンツの美しさは尻グリにあるので、サイズの小さい人が履いてこの程度であれば、問題はないと考えます。
下段は予定していたモデルです。寸法は以下のとおりです。
ウエスト..............62(最細部)
ヒップ..................87(ヒップトップ)
パンツの尻グリ距離は49.4(ベルトを含まない)なので、彼女が履くとベルと下がちょうどヒップボーンの真上にくる深さですが、やはりちょっとウエストが大きすぎました。ベルトを直線で作ったためかと思われます。カーブベルトならベルト上で今より約3cmは細くできるので、ちょうど良くなるでしょう。
この人はふくらはぎの張り出しがやや強いので、膝から下がちょっと引っかかる感じです。ワタリはもう少し細くてもいいかなと感じました。今のワタリ寸法はヒップの仕上がりに対して62.85%となっていますので、62%くらいまで細めてもいいでしょう。今より5ミリほど細くなります。
このパンツは直立姿勢ではなく、動きやすさも考慮して、やや開脚姿勢を意識して作ってありますが、上段も下段も、正面からの写真では小股付近にヒゲが出ています。ヒップからワタリ寸法が不足しているのではと思われるかも知れませんが、上段のヒップでもヒゲは出ているので、これは脚をやや広げすぎて立っていることが原因と思われます。僕はこのヒゲの出方は良しとしていますが、もしも修正する場合は、前身小股のカーブをもう少し大きく(浅く)すれば直ると思います。

パンツのメカニズムはまだまだ奥が深く、解説しなければならないことはたくさんあると思っています。今回のシリーズはここで終了しますが、これは基本中の基本だとご理解いただき、次のレクチャーを楽しみにしてください。
 

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Copyright Koichi Tamaki