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肩甲骨のメカニズム



さっそくですが下の写真を見てください。下の写真は後身頃のドレーピングの様子です。メンズ用ダミーにシーチングを当てていますが、ダミーはどれも同じなのに、肩甲骨のピークから下に落ちるシワの出方が違っています。シワの分量はAが最も多く、続いてBがやや多く、Cはほとんど出ていません。実はダミーにある細工をしてあるのですが、どのような細工が為されているかお解りですか。写真を良く見ればわかると思うのですが、肩傾斜の違いに注目してください。実は肩パットを積んでいるのです。Aはパット無しのヌード、Bは約1cm厚、Cは約2cm厚の肩パットが付いています。ただ単に肩パットを積んだだけで、肩甲骨のクセの出方がこれほどまでに変化するというところを見ていただきたかったのです。  

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肩甲骨のクセは、TOPSで最もパタンナーを泣かせる部位のひとつです。テーラードの後身肩線にイセが入っているのは、この肩甲骨のクセを処理するひとつの方法として認識されています。それが真実かどうかはさておき、他には4パネやプリンセスラインといった切替も肩甲骨を処理するひとつの方法として活用されています。いずれにしても肩甲骨のクセ処理は、優れたパターンメーキングと縫製技術を必要とする厄介な部分です。多くのパタンナーが、この肩甲骨のクセ処理に悩んでいるのではないでしょうか。しかしこうして厚いパットを積むことでそれが解消されるとしたら、そこにはいったいどのようなメカニズムが働いているのでしょうか。今回はこの点にしぼって解説しようと思います。  

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1. 滑らかな肩甲骨

冒頭にご紹介した写真は僕が使っているK+L社のダミーGK96です。キイヤ製「ブレタス」が入手できなかったので写真で比較できないのが残念ですが、ブレタスに比べて、かなりフラットな肩甲骨になっています。このフラット加減がミソなのですが、肩甲骨が張り出していればいるほど、ドレーピング時に大きなクセが生じることは容易に理解できますよね。逆に真っ平らな背中だとしたら、つまり肩甲骨の膨らみがまったく無いとしたら、クセが出ることもなく、全体の服作りも楽になりますね。

左の写真はGK96のヌードを側面と真上から見たものです。このダミーはブレタスのように肩甲骨が張り出していないため、肩甲骨のクセの出方が少なくて済みます。とは言っても、板のようにぺったんこではありませんから、まったく出ないというわけではありません。冒頭の写真Aがヌードの状態ですが、比較的フラットなこのダミーでさえこの程度のクセが出ます。ここで疑問になるのがクセの分量です。クセの多い少ないは何によって決定されるのでしょうか。

 

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2. 側面から見た肩甲骨

みなさんにとって最も関心のある(と思われる)女性用ダミーで、肩甲骨周りの形状を比較しました。まずは横方向、側面写真で違いを見てみます。

左から9AR、AMICO、K+L、BUNKAです。こうして比較するととても面白いですね。9ARとBUNKAはとても特徴的です。良いとか悪いとかという比較ではないのですが、横から見る限り、AMICOは上のメンズ用GK96にとても近い形状をしています。つまりフラットです。K+Lもフラットはフラットですが、屈伸度が強く、なんとなく若さを感じません。一方9ARは肩甲骨上部で張り出しが強くなっていて、BUNKAは上と下に張り出しがあります。こうしたダミーによる肩甲骨の変化は、クセの分量と直接的な関係があるのでしょうか。

下の写真は、それぞれのダミーに実際にシーチングを貼付けたところです。どれもクセの分量そのものに大きな違いは見られませんね。あれほど形状が異なっている割に、分量そのものに大きな変化はないのですから、形状とクセの分量とは無関係なのかもしれません。しかしよく見ると、クセの出方や表情が大きく違っていることがわかります。

一番右のBUNKAは肩甲骨のかなり高い位置に頂点があり、しかもダーツ止まりが明瞭になっています。一方9ARとK+Lはダーツ止まり、つまり肩甲骨のピークに幅があります。これは山の頂点が尖ってないという証拠です。これは言葉を変えると「ボヤケている」となります。ピークが尖っている場合はダーツが一部分に顕著に出現し、フラットで滑らかになればなるほどボヤケてくるのです。肩甲骨の膨らみが4体の中で最もフラットに見えたAMICOが、最もボヤケていることがわかります。

 

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3. 上から見た肩甲骨

側面から見た形状が異なっているように、上から見た肩甲骨の形状もダミーによって様々です。しかし先の写真で見たとおり、実際にドレーピングをしてみると、クセの分量に大差は見られません。やはり形状とクセ分量との間には関連性が無いように思われます。肩甲骨の最も出っ張った位置に白い破線が引いてあります。そしてその線からアームホールの後端に向かって赤線が引いてあります。あくまでも便宜的な見方ですが、この赤線が山の高さだと言うことができます。左の4体はどれも赤線の長さ、つまり山の高さに差がありません。だからドレーピングをすると、どれも同じような分量のクセが出たわけです。
 

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4. 肩甲骨の高さ

話を冒頭の写真に戻しましょう。同じダミーであっても、肩パットを積むことで肩甲骨からのクセ分量が減りました。これはつまり、肩パットを積むことによって山の高さが軽減されたと考えられます。肩甲骨の張り出しが小さくなったということです。左写真の黄色の縦線がそうですが、女性用のダミーに比べてずいぶん短くなっています。ようするに山が低いわけですが、これがこのメンズ用GKの特徴です。肩甲骨の膨らみを押さえた設計になっているため、日本のダミーと比較した場合、肩甲骨のクセ分量がかなり少なくなるため、ドレーピング時のクセ処理が相当楽になるのわけです。これに 肩パットを積むことで更に山が低くなります。冒頭の写真Cでクセがほとんど出なくなった原因はここにあります。下の写真を見ればわかるとおり、肩パットの厚みが肩甲骨の高さを相殺し、フラットで張り出しの少ない背中になったわけです。さて肩甲骨のメカニズムがだいぶ見えてきました。ここまでのまとめをしてみましょう。

1.肩甲骨の形状はクセ量と直接的な関係はない。
2.肩甲骨の山が高いとクセの量も多くなる。
3.肩甲骨の山が低いとクセ量が少なくなる。
4.クセ量が少なければ背中の処理が楽になる。

と、ここまではだいたい解りました。でもそれがどうしたの? といった声が聞こえてきそうです。肩甲骨を低くすることでクセ処理が楽になるのは解るが、クセがゼロになるわけではないのだから同じことじゃあないのか。そんなことはありません。肩甲骨のクセ分量が少なくなるということは、パターンメーキングに於いて重要な意味を持ちます。その具体的な例をご覧いただきましょう。
 

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5. テーラードのドレーピング

パットで補正したダミーを使ってドレーピングをしてみました。アイテムはテーラードジャケット、3パネのつもりでピンを打ちました。肩甲骨の膨らみを抑えたため、そこから出るクセはごくわずかなものでした。肩線にまわしてイセ分としても、せいぜい7~8ミリ程度です。しかし僕のパターンメーキングはアイロン処理を行わないところにその特徴があります。その程度のイセなら、パターンテクニックでどうにでもなります。今回はその一部を背中心に逃がし、一部はパネル切替線のウエストあたりに逃がしました。したがって肩線にイセ分はありません。写真では解り難いでしょうが、なかなかキレイに入ってます。写真やムービーでは解りづらいとは思いますが、僕はこの後姿をカッコイイと感じています。みなさんはどう感じますか。
 

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6. 肩甲骨の膨らみを抑える意味

上のドレーピングをヌードのダミーでやったらどうなるかはお解りですよね。9ARやAMICOやBUNKAをお使いの皆さんなら、肩甲骨のクセ処理に泣かされていたはずです。ダミーの肩甲骨が張り出している。そのためにクセ処理が難しくなる。だったら肩甲骨を削ってしまえばいいというのが僕の考えです。

肩甲骨の張り出しを低く抑えるため、まずは写真Aのようにアームホールの後側にパットを積みました。厚さは約7ミリ程度です。下の写真を見ればお解りのとおり、これで山の高さはかなり軽減します。次に肩傾斜の分として厚さ約5ミリのパットを、これは普通に積みました。山の高さはさらに軽減されます。使用しているダミーはBUNKAですが、先に比較した女性用ダミーの中で、最も肩甲骨の張り出しが大きいものを使いました。

ここで注目していただきたいのは、写真Bのアームホールに描いた赤丸です。白破線はヌードのアームホールですが、パットを積むことで肩甲骨の高さを抑えましたが、結果として、アームホールが後へ移動しました。前の位置は動いてないので、移動したというよりは、後へ広がったと言った方が良いかもしれません。さてこれはどういうことを意味しているでしょうか。実は日本人の体型的特徴としてよく言われている「前肩」が関係しているのです。

写真C、Dは真上からの写真です。白破線の基準線と肩甲骨ラインは、先の写真にあったヌード時のものです。比較していただければわかるとおり、パットを積むことで肩甲骨の高さが低くなっています。そして同時に、前肩が抑えられていることに注目していただきたいのです。

 

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男性用ダミーとして約35年ほど前に登場した「Bletas」は、日本人成人男子の特徴を巧みに表現した優秀なダミーであると、当時のパタンナー達から高い評価を得ました。それ以前にパターンメーキング用のまともなダミーがなかったせいもあるのでしょうが、ブレタスの登場以来、メンズの服作りの現場に広く普及しました。もちろん今でも多くのメーカーで使われている、言わば日本のスタンダードとも言うべきダミーです。その巧みに表現した日本人成人男子の特徴とは、具体的にどういうものなのか。

1.怒り肩
2.前肩
3.猫背

本格的な体格調査を元に開発されたという意味では、日本では始めてと言ってもいいこのダミーですが、備えている特徴は上記の3点でした。使ってみればわかりますが、確かにブレタスは日本人の特徴を巧みに表しています。したがって、完成した服はどれもカッコ悪いのです。怒り肩、前肩、猫背がどのような体型かを想像してください。いやそれ以前に、一般的な日本人男性がいかにカッコ悪いかを考えてみてください。

今朝のニュースで管総理とオバマさんの会談の様子が映されていましたが、オバマさんの姿勢や体型と比較して、みずぼらしいとも言えるほどカッコ悪い管さんがいました。日本人の体型です。日本人の洋服に対する姿勢です。そのような人達に合わせてダミーを作り、それに合うように服を作る。これがどういう意味を持つかを考えてください。

話がだいぶ逸れました。その日本人的特徴を巧みに表現していたのは、実は男性用だけではなかったことが、僕が女性をやり始めて最初に受けた衝撃でした。なんだ! 女性用ダミーもこんなにカッコ悪い体型をしているのか! そう思いました。先に比較しただけではなく、日本の女性用ダミーはたくさんあるでしょう。しかし僕の見る限り、どれも巧みに日本人の特徴を表現しています。さすがに怒り肩はほとんど見られませんが、どれも強い前肩と猫背です。そして本題ですが、前肩の強さと肩甲骨の張り出しは比例関係にあるという点です。

日本の女性用ダミーのほとんどが強い前肩で作られています。そのために肩甲骨が大きく張り出しているのです。これは先の管さんとオバマさんとの比較でもわかるとおり、明らかにカッコ悪い体型です。そのままで服を作っていたらどうなるのか。僕がダミーにパットを積んで補正するのはそのためです。僕の考えるカッコ良さを表現するために、既成のダミーに加工を施しているのです。

僕がメンズ用として使っているKL社のダミーは、先に書いたとおり肩甲骨の張り出しが抑えられています。それはつまり前肩ではない、という意味なのです。違う言い方をすれば、とても良い姿勢の体型と言えます。つまりカッコイイ、オバマさんのような姿勢なのです。このダミーが日本で使われ始めてかれこれ20年になりますが、有名ブランドのほとんで使われている最大の理由がここにあるのだろうと考えています。
 

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7. 肩甲骨と前肩の関係

さて最後の写真です。左右とも赤線はKLのメンズ用ダミーGKの輪郭です。そして黒線が女性用です。左が9AR、右がBUNKAですが、GKと比較するとどちらも肩甲骨の張り出しが強く、前肩も強くなっていることがわかります。肩甲骨の張り出しが強ければ強いほど、前肩も強くなります。そしてこのような体型で服を作った場合、肩甲骨のクセ処理がとても難しくなります。肩でイセるのかダキでイセるのか、いずれにしろ優れたアイロン技術を持って処理するしか他に方法がありません。そしてここがとても重要なことなのですが、背中を処理する以上、これを有効に生かすためには、前肩が完璧に処理される必要があるということです。肩やダキをまともにイセられる工場の存在さえ怪しい昨今、前肩を処理できる工場が果たしてあるでしょうか。僕の知る限りありません。逆を言えば、前肩処理ができないのであれば、肩甲骨を処理する意味がないということなのです。これは主にテーラードのパターンメーキングと縫製に関する話ですが、テーラードを除くアイテムで前肩を処理することなど滅多にありません。ということは、シャツでもブルゾンでも何でも結構ですが、肩甲骨のクセ処理は最小限でいいことになります。肩甲骨処理と前肩処理は、TOPSの中でもかなり難しい問題です。これは機会のある時に更に詳しくお話しなければなりませんが、ひとまずは肩甲骨のメカニズムとしてご理解ください。
 

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Copyright Koichi Tamaki