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定義と原則



そもそもグレーディングとはいったい何なのか。
このわかりきった問題を改めて問われると、あまりにも当たり前すぎて、どう答えていいかわからないのではないでしょうか。既製服にとってグレーディングが必要不可欠であることは、誰もが認める業界の常識ですが、えてして常識というものは、その本質が見失われるものでもあります。グレーディングの何たるかを知らない者がこの業界にいるとは思えませんが、改めて何かと問われたとき、これを正確に答えられる人は案外少ないものです。

グレーディングとは誰もが考えているとおり既製服のサイズ展開です。これこそがグレーディングの定義であることに間違いはないのですが、ならばサイズ展開とはいったい何かという話になります。実はここに、グレーディングの根本的テーマが隠されています。つまりそれはサイズ展開の定義ともいうべき基本的な考え方です。サイズ展開というものが業界でどう捉えられどう認識されているのか、そしてその認識に間違いはないのかというあたりを、サイズ展開という言葉に含まれる意味と内容を、まずは正確に定義することからはじめなければならないでしょう。

まずはサイズ展開の「サイズ」の意味を探りましょう。
SとかMとか、9号とか11号とか、更には38、40などと、現代はサイズ表記も多様化していて訳が分かりません。それぞれがどのような意味を持っているのかという話はさておき、ここで重要なのは、それぞれの表記は大きさの違いを表しているのだという点です。
そんなことは当たり前だと言われそうですが、もう少し詳しく言うと、大きさとは体格的概念、つまりバストは何センチ、ネックは何センチというように数値で表せる概念だということです。そしてこの概念に形状、つまり人の身体の形を意味する体型的概念は含まれていないという点が重要です。

もう少し具体的な話をしましょう。
ここにエビちゃん(蛯原友里さん)をモデルとして作られた服があるとしましょう。マスターパターンがエビちゃんサイズになっているということです。エビちゃんのプロポーションですが、スリーサイズが82-58-83という、うらやましい体型であることは言うまでもありません。話を単純化するために身長と体重で話をしましょう。エビちゃんの身長と体重は以下のとおりです。
身長---------------168cm
体重---------------48kg
さてこの服をデブタレで有名な柳原可奈子(僕は大ファンです)さんにも着せたいのでグレーディングすることになりました。スリーサイズは不明ですが、バストが100cm以上あることは間違いないですね。彼女のプロポーションは以下のとおりです。
身長---------------153cm
体重---------------74kg
パタンナーのあなたならどうしますか?

エビちゃんと柳原さんではプロポーションが違います。これは誰にも解りますが、プロポーションとは形状、つまり人の身体の形のことです。つまり体型的概念ですが、これは上記したとおり原則として数値で表せません(3次元座標など高度な数学を用いれば表すことが可能ですが、それを自らの脳で表象化することは限りなく不可能に近いと思います)。身長と体重がそれほど違うのだから、明らかに柳原さんはエビちゃんよりデブであることは解りますが、数値だけではどのようなデブなのかが解らないのです。さあ、あなたならグレーディングできますか? CADを使えば何とかなりますか?

もし僕がグレーディングを依頼されたら即座にお断りします。なぜならできないからです。しかし世間ではどうでしょうか。現実問題として上記のようなグレーディングが実際に行われています。例えば百貨店のフォーマルの売り場を見てください。同じデザインの服が7~19号くらいまで揃っています。これらの服はひとつのマスターを元にすべてグレーディングによってサイズ展開されたものです。エビちゃん体型の人にも柳原さん体型の人にも着ていただけるように用意されているわけです。

しかしここに大きな矛盾と勘違いがあることを知る必要があります。
上記したとおりサイズとは大きさのことであり、大きさとは形ではありません。つまり僕が言いたいのは、大きさと形は違うということなのです。大きさ、つまり寸法的なことだけを考えるならば、エビちゃんを柳原さんにすることは可能かも知れません。しかしそのとき形はどうなりますか。みなさんが行っている方法でグレーディングしたとき、形も柳原さんになるのですか。上記の百貨店に売られているフォーマル(それ以外の多くの服もそうですが)は、マスターと異なった形状で各サイズがグレーディングされています。つまり形が違うということです。パターンメーキングではあれほど細かいシルエットにこだわりながら、どうしてグレーディングでは形にこだわらないのでしょうか。僕はそこが不思議で仕方ありません。エビちゃんで作った服が、グレーディングで本当に柳原さんの形になってくれますか。各サイズ毎に形が違うのであれば、正しい形とはいったい何サイズなのでしょうか。 マスターをサンプリングしてモデルに着せ、フィッティング検討をするのは何のためなのでしょうか。そこまでこだわった形やシルエットが、各サイズでは違ったものになってしまうのですか。

僕は不思議で仕方ありません。大きさと形は異なった概念です。マスターを作る際のパターンメーキングでは使うボディーの形にこだわり、ファーストサンプルの修正時もフィッティングモデルの形にこだわります。そしてショウウインドウのマネキンもポスターのモデルも、プロポーションにこだわった素晴らしい形状の持ち主です。ならば、グレーディングでも同じ形を再現できなければ、それはお客様への裏切りにはならないのでしょうか。マスターと各サイズで異なったシルエットだとしたら、客は困惑するのではないでしょうか。業界のほとんどで、形と大きさという異なった概念を一緒くたにしたグレーディングが行われているのです。
上記したエビちゃんの服はエビちゃんをモデルとしてパターンメーキングされました。つまりエビちゃんの体型なのです。そして大きさはどうかというとエビちゃんサイズなんです。エビちゃん体型でエビちゃんサイズです。これを、エビちゃん体型の柳原サイズにできますか? あるいは、柳原体型のエビちゃんサイズにできますか。ほらほら、もうややこしくて解らなくなっていませんか。このグレーディングがいかに無理な相談だということがご理解できると思います。

既製服の原則に則って考えるならば、服は客に合わせて作るものではありません。一方、服作りは何でもありの世界ですから、もちろん上記のような混乱グレーディングが悪いとは言えません。なにをやろうとカラスの勝手なのですから。またどんな方法でグレーディングを行っても、顧客への適用範囲は同じです。どう工夫しようが、原則として範囲を広げることはできません。そのサイズに合う人間とは、そのサイズに合った人だけなのですから。しかしこの点でも、多くの方々は誤解しています。エビちゃん体型から柳原体型へグレーディングすれば、顧客の適応範囲が広がると思っているのですが、まったく大きな勘違いです。
では比例バランスグレーディングなら範囲は広がるのか。そんなはずはありません。原則はあくまでも原則ですから、比例バランスグレーディングと言えども結果は同じです。
何をやっても結果が同じなら、ものごと安くて早くて簡単なほうがいいに決まってます。だから僕は比例バランスグレーディングをやっているのです。しかもこれは安くて早くて簡単なだけではありません。マスターとすべて同じ形状、シルエットを保っているという点に注目していただきたいのです。

ここにエビちゃん体型の服があります。サイズはエビちゃんサイズです。さてこれを比例バランスでグレーディングしてみましょう。マスターを中(M)として小(S)と大(L)をグレーディングします。できあがったサイズ展開は以下のようになります。
エビちゃん小
エビちゃん中
エビちゃん大
小さいエビちゃんから大きいエビちゃんまでが相似形で揃ったことになります。実に単純明快ではないですか?
エビちゃんの形を維持したまま大きさだけが変化するわけですが、これが比例バランスグレーディングの基本的な考え方なのです。

では柳原さんはどうすればいいのか、という問題が残ります。
答えは明確です。柳原さんをモデルとしたパターンメーキングで、柳原体型のマスターを作ればいいのです。これを比例バランスでグレーディングすれば、小さな柳原さん、中くらいの柳原さん、大きい柳原さんができあがる訳です。

まとめてみましょう。

グレーディングとは既製服のサイズ展開である。
サイズ展開とはマスターパターンを元に、サイズの大中小を作ることである。
サイズの大中小とは服の大きさの変化であり、形の変化ではない。
したがってグレーディングでは大きさの変化のみを扱い、形を変化させてはいけない。

以上がグレーディングの定義と原則です。いかがですか? みなさんの考え方とはかなり違うのではないでしょうか。

 

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